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V 借り物の名前
最後に見たのが、もう随分と昔に思える寝室。
ナイトテーブルに置かれたキャンドルに火を付けるモーリスの姿を眺めながら、彼が淹れてくれたホットミルクに口を付ける。
薔薇の花弁が練り込まれたそのキャンドルは、私が所持しているキャンドルの中でも最も気に入っている物だ。ふわりと柔らかく立つ薔薇の香りは何処かモーリスの匂いに似ていて、とても穏やかな気持ちになれる。
「さて、ではお嬢様のお望み通り、“お話”でもしましょうか」
私が眠りやすい環境を作ってくれた彼が、漸くベッドの隣に置かれた木の丸椅子に腰掛けた。
「あまり面白い話ではありませんが、今のお嬢様なら、興味を示してくださるかもしれませんね。――これは、随分と昔の話になります」
彼の口ぶりに自然と期待が膨らむのを感じながら、ゆっくりと穏やかな口調で話し始めた彼の声に耳を傾ける。
「その日は確か、珍しく空気の澄んだ早朝だったと記憶しています。私の日課であった、奥様の好きな花を調達しに街へ出ていた時の話なのですが――」
「街に?貴方が?」
「ええ、20年程前の事ですので。当時は私もまだこのお屋敷に来たばかりで、買い出しや掃除などの雑用を主に担当しておりました」
モーリスの現在の年齢は把握していないが、20年も昔の事であれば、彼も今よりずっと若かった筈だ。彼の若い頃の姿には非常に興味があり、叶うことなら見てみたかったとぼんやりと考えながらミルクを啜る。
「その街で私は、長い黒髪に赤い瞳が印象的な、若い女性と出会いました。シェリルと名乗ったその女性は、エルお嬢様の様に非常に心優しいお方で、とても魅力的な女性だった事を今でもよく覚えております」
「…私の様に、って…流石にその方に失礼だわ」
「私は事実を言った迄ですよ。――その女性はとても街に溶け込んでいて、一見街の人間と変わらない様に見えましたが、気になる事が1つ。彼女は自身と同じ階級の筈なのに、何故だか佇まいも、話す言葉も、貴族の其れと変わりなかったのです」
興味が湧く、と言うにはまだ段階が早い。だが、その話に妙な感情が沸き上がり、カップに落としていた視線を上げた。
「…それは、彼女が特別礼儀正しかったという訳では無くて?」
「勿論、私も最初はそう思いました。それに、転落貴族の1人かもしれぬとも、考えました。だけど、違った」
何故だか自然と、鼓動が早くなる。「違った?」復唱するように彼に尋ねると、彼が微笑みを湛えたまま小さく頷いた。
「転落貴族の類だったとしても、彼女が特別礼儀作法を身に着けていた人物だったとしても、不自然な点が多すぎる。それは、私の勘も少々含まれていたかもしれませんが、その“不自然さ”がどうしても拭いきれず、独自で彼女の素性を調べました」
「…素性を、調べる…」
思わずそれを口に出すと、彼が「褒められた行動では無いのは重々承知の上でしたが」と苦笑いを浮かべた。
「彼女は私に、シェリルと名乗った。もし彼女に何らかの秘密があるのなら、それも偽名だと思っていたのですが…、彼女のその名は本名で、そして有ろう事か、彼女は名家の令嬢だという事が分かりました」
どきりと、鼓動が跳ね上がる。
彼の口ぶりからするに、その女性はきっとモーリスと同じ様に街へ買い出しにでも出ていたのだろう。だが、貴族令嬢が街へ買い出しに、なんて事がある筈が無い。
確かに、貴族の人間が自ら店に出向く事が無いとは言い切れないが、それは特例であり、貴族界では殆ど“あり得ない”事だ。令嬢である彼女が、何故街へ?
「――シェリル・キャヴェンディッシュ」
「――!」
突如、彼が口にした名前。“それ”に、疑問が解けていく。
キャヴェンディッシュ家。それは、マンチェスターに大きなお屋敷を持つ名家だ。
少し前に、書斎の隅に積まれていた古い新聞で、約20年前にキャヴェンディッシュ家で起こった事件の記事を目にした。それは非常に印象に残っていて、興味深い話であった。
――当時17歳だった令嬢、シェリル・キャヴェンディッシュが、ある晩突如姿を消し、行方不明になった。それは各新聞で大々的に報じられ、誘拐等の事件に巻き込まれたのでは無いかと警察も懸命に捜査を行ったが、結局彼女が見つかる事は無かった。
そしてその数年後、ロンドンの小さな街にある家屋で、男女の遺体が発見された。その女性はキャヴェンディッシュ家の令嬢では無いかと噂されていた様だが、遺体の損傷が激しく、更には亡くなってからかなりの時間が経過していた為、身元の判明は出来なかったのだとか。
全て、当時の新聞を読んだだけの知識でしかないが、当時相当世間を賑わせた事件だった様で、どの新聞にも様々な事が細かに書かれていた。
「お嬢様も、キャヴェンディッシュ家の事件はご存じでしょう」
「ええ勿論。書斎に当時の新聞が積まれていて、気になって読んだ事があるの。知識は浅いけれど、ある程度は把握しているわ」
「あぁ、それは旦那様が集めていらっしゃった物ですな。当時、社交界での良い話題になると、キャヴェンディッシュ家の事件の情報を多く求めていらっしゃったので。この屋敷の書斎は広いですからな、きっと処分を忘れてそのままにしてあったのでしょう」
「……社交界での話題…ね」
父らしい事だ、と嘲笑を交えた溜息を吐く。
他人の家の事件を、面白可笑しく話題にするのは好ましくない。キャヴェンディッシュ家の、当時の家庭環境は私には分からないが、それでも彼女の両親が彼女を探していた事は事実だ。
「それで?その女性――シェリルさんとはその後どうなったの?」
無理矢理自身の気を反らす様に、話の続きを急かす。
「どうやら彼女は街の男性と恋仲になり、駆け落ちをしたそうで。男児を授かり、幸せそうに暮らしていましたよ」
「…駆け落ち……?」
「ええ、彼女の口からキャヴェンディッシュ家の話が出る事はありませんでしたが、それでも、相手の男性を心から愛していると、駆け落ちした事は一切後悔していないと、笑顔で仰っていました」
「……そう」
――駆け落ち。それは、親や周囲に反対されているなどの事情により、愛し合っている男女が行方をくらませること。主に物語上で描かれる事が多い。
私の愛読書にも、男女の駆け落ちを題材にした物語が幾つかあった筈だ。
身分が違えど、同じ人間である事には変わりない。そんな2人が、全てを捨てて結ばれる。私が心から羨み望む展開だが、現実世界では“あり得ない”と何処かで思い込んでいた。
その所為か、キャヴェンディッシュ家の令嬢の話には非常に興味がある。一体何処で知り合い、どの様に結ばれ、どの様に屋敷を抜け出したのか。
だがモーリスは、私がそれ以上の情報を求める前に「私が話せるのは此処までですよ」と早々に話を切り上げてしまった。
「その、彼女の子供はどうなったのかしら。令嬢の失踪から数年後、このロンドンで遺体が見つかったと記事で読んだけれど、シェリルさんの遺体だと噂されていたのでしょう?でも、そこに子供の遺体は無かった筈だわ」
どうにか、あと少しだけでも情報を掴めないかと食い下がる。
「それは、私には分かりかねます」
だがモーリスは、意味有り気に笑みを漏らすだけでそれ以上の事は言おうとしない。
きっと、彼ならもっと様々な情報を持っている筈だ。彼に知らない事は無いのではないかと思う程に、彼は博識である。
「お願い、他にも色々知っていることがあるなら教えて欲しいの」
「そう、言われましてもなぁ」
困った様に笑ったモーリスが、ううむ、と小さく唸った。
「これはお嬢様のお求めの情報ではございませんが、もしその男児が今も何処かで生きているのなら、お嬢様の3つ年上の青年となっている事でしょう。きっと、彼女に似て端正な顔立ちをしているに違いない」
「何処かで…?シェリルさんは?あのご遺体は、本当にシェリルさんの物だったの?」
次から次へと湧き出す疑問と好奇心。
だが彼がその質問に答えてくれる事は無く、相変わらずの笑顔で私の手に持たれていた空のカップを取り上げた。
「さあ、お話は終わりです。早く眠らなければ、明日のレッスンに響いてしまいますよ」
「待って、待ってお願い、あと5分だけ」
小さな子供が駄々を捏ねている様だと、自分でも思う。寧ろ、小さな子供でも此処までの我儘は言わないだろう。みっともないと思いながらも、それでもまだ入眠の為に必要な眠気が足りず、押し込まれたベッドの中からモーリスの服の袖を掴んだ。
「…お願い」
ついつい柄にもなく甘えた素振りを見せてしまうのは、モーリスと居ると何故だか幼少期に戻った様に感じてしまうからだ。だからと言っては何だが、我儘を言っても許されるような気がしていた。
「仕方ありませんね。では、本当にあと5分だけですよ」
そんな私を見て、彼が呆れた様に笑う。
昨晩読んだ、命の宿ったドールを題材にした物語。その中に出てくる、“パパ”と呼ばれていた人も、今のモーリスの様に優しい人だった。
彼が私をこうして甘やかすのは、単に自分が仕える人物に逆らえないという事もあるかもしれない。だが今はそれでもいい。もう少しだけ、彼と話していたい。
モーリスがカップをナイトテーブルに置いて、木の椅子に座り直す。
「では、今度はお嬢様のお話をお聞かせ願えますか?」
「私の、話?」
「ええ、そうです。私ばかり話していてはつまらないでしょう。そうですね、眠る時間を過ぎているのにも関わらず、寝室を抜け出し屋敷の探索をしていた罰、という事にしておきましょうか」
ふと、先程の食堂での事を思い出し、さっと顔から血の気が引いた。
彼は今でもその件について触れないが、きっと本心では、私が何故あんな事をしようとしたのか問い質したいのだろう。
なのに彼は、敢えて核心を突かない言葉を選び、更には“それ”を冗談めいた口調で告げた。
きっと、私に逃げ道を作ってくれている。
言いたくない事は言わなくていいと、言いたいことは言っていいのだと。そう言ってくれている様で胸がズキりと痛んだ。
「――モーリスやメアリーは、私に沢山の事を教えてくれた。きっと、私は1人きりになっても生きていく事は出来るでしょう」
死を選んだ方が幸せだと思った。そう、彼に打ち明けてしまいたかった。だが、幼少期からずっと傍に居てくれた彼に心配を掛けたく無い気持ちの方が今は大きい。
だから私は彼の優しさに甘え、それの“中間”を取った。
「でもね、私には…名乗れる名前が無いの。エインズワースは私に与えられた名前であり、裏を返せば、私はそれ以外の名前を得る事は出来ない」
私の言葉を、彼は黙って聞いてくれた。
先を急かす事もせず、口を挟む事も無く、ただ優しい眼差しを私に向けてくれている。
「私が、エル・エインズワースで居る限り、私はこの家から逃れられない」
本来は、私がこうして彼に甘えることも許されることでは無い。使用人と令嬢は、どう足掻いても変えられない関係だと、先程思ったばかりなのに。
もし母が言うように、本当に彼が私を騙そうとしているのなら。もういっそ、このまま永遠に騙し続けてはくれないか。私をこの場から引きずり堕として、彼等と対等の人間にしてはくれないか。
思わず瞳に滲んだ涙を、隠す様に彼から顔を背けた。
「――では」
今まで黙っていたモーリスが、徐に口を開いた。
「私の名を、お貸し致しましょう」
私の耳に届いたのは、諭すような、優しく静かな声。
――その言葉を聞いた瞬間、私の耳が、もしくは頭が、おかしくなってしまったのかと思った。自分の都合の良いように、物事を書き換えてしまう程、精神に異常をきたしてしまったのかと思った。
思いもよらぬ言葉に、涙を隠す事も忘れぱっと彼の方へ顔を向ける。
「もし仮に、今後お嬢様がこの家を去る時が来たとしたら。その時は、私の姓を名乗れば良いのです」
「貴方の、姓……?」
「ええ、そうです。エル・バートン、と」
「……エル・バートン」
復唱するように、その名前を呟く。
たった姓1つだけなのに、呼び名が変わっただけなのに。その名前はとても温かかった。私に、希望を与えてくれている様で、まだ、生きていていいと言ってくれている様で、瞳に滲んだ涙が零れ落ちる。
「私は如何なる時も、お嬢様の味方で御座います。それにもしその名を名乗って頂ければ、私がこの屋敷を去った後も、お嬢様を見つける事ができるかもしれません」
「去る…?貴方、この屋敷を去る予定があるの…?」
「いいえ、もしもの話でございます」
彼の指先が、徐に頬を伝う涙を拭う。そして変わらぬ優しい微笑みに、釣られて私も笑った。
「ふふ、エル・バートン…、とてもいい名前ね。まるで、貴方と家族にでもなったみたいだわ」
「こんな老い耄れが家族では、お嬢様の御負担になってしまうでしょう」
「そんなことないわ!貴方が家族だとしたら、とても心強くて、安心できる」
「お嬢様の様に素敵な女性と家族だなんて、恐れ多い事で御座います」
私の言葉に、モーリスが声を上げて笑う。きっと、本気にしていないのだろう。子供の戯言だとでも思っているのだろうか。
だがそんなモーリスにむっとしながらも、私の心は軽くなっていた。安堵からか、程良い眠気が訪れ瞼が少しずつ重くなっていく。
「明日のアフタヌーンティーは、お嬢様のお気に召す茶葉を使用致しましょう。ですので、今晩はゆっくりとおやすみなさいませ、エルお嬢様」
「ええ、おやすみなさい。モーリス」
この心の安らぎは、いつまで続くのだろうか。明日になれば、またいつもの様に病的な不安に苛まれてしまうのだろうか。
そんな不安が、一瞬脳裏を過る。
だが鼻腔を擽る薔薇のキャンドルの香りに、その思考は徐々に溶かされ、意識は深い眠りの中へと落ちていった。
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