DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XIV 訪問者-I

 屋敷を出て3日。
 やはり性別の壁と言う物があるのか、セドリックとの暮らしは未だ慣れない。気まずい空気が流れたり、気を遣い合ったりといった事も多い。
 まだ出逢って日が浅い男女が、1つ屋根の下で暮らしているのだ。普通に考えてみれば、気まずいのは当然だろう。その暮らしがストレスになり、逃げ出したいと感じてもおかしくない位だ。
 だが、屋敷で暮らしていた間私を苛み続けていた病的な不安や絶望感、注察妄想等は嘘の様に消え去り、今はそんな気まずささえ気にならない程に、この生活に幸福感と安堵を感じていた。

 そしてたったの3日間だが、セドリックと共に暮らしてみて分かった事がある。それは、私が両親の目を盗み、こっそりと身に付けた料理や掃除、洗濯等の所謂“家事”の需要性だ。
 私が身に着けたそれ等の教養は決して十分な物では無く、使用人も居ない家で1人暮らしをしていた彼に敵う物では無い。其れこそ、役に立つどころか足手纏いになるだけだとばかり思っていた。
 だが、どうやら彼は必要最低限の家事は出来るものの、それ等の殆どを得意とせず、普段から全くと言っていい程やってこなかったそうだ。
 食事は常に外食。それが出来ない日には食事を摂らない選択をし、更には掃除を極力しなくて済む様に、家を汚さぬ生活を心掛けていた程なのだとか。

 そんな彼に、多少の家事が出来ると告げた時は心底驚かれた。
 勿論、最初から全てを信じて貰えた訳では無い。当然と言うにははばかられるものだが、貴族令嬢が“家事”を心得ているなど普通では考えられない事だろう。彼も私を、1人では何も出来ないお嬢様だと思っていた様で、最初は私の言葉もただの見栄だと思われていたらしい。
 だが限られた材料で軽食を作って見せた所、私の言葉を信じるだけで無く、好反応まで見せてくれた。
 それは彼の想像以上の出来栄えだったらしく、その日から彼に家の事を任せて貰えるようになり、現在家事全般は私が担当している。

 家事とは、決して簡単な物では無いのだろう。この世の中に“家事使用人”という職業が存在している時点で、少なからず誰しもが的確に熟せる物では無い筈だ。
 だが言わずもがな、この世の中の貴族達は家事が熟せる熟せない以前に、身分に合った贅沢な暮らしをするが故に使用人を雇う。所謂、貴族達が豪語する“上流階級の人間のみが許される優雅な生活”という物だ。
 それが誰もが羨望する暮らしではあるが、約18年間その暮らしをしてきた私からしてみれば、“1日家事に追われ走り回っている生活”の方が余程性に合っていて、人生としても有意義だと思えた。
 そんな事を言ったら、下層階級の人達に怒られてしまうだろうか。彼等が、想像を絶する苦労の中で日々生きているという事は私も知っている。彼等からすれば、たった1日だけでも貴族の暮らしを味わってみたいと思うのだろう。

 だが今は、有意義であるか無いか、自分の性に合っているか、等では無く、ただセドリックの役に立つことがしたいという願望が最も強かった。それはこの家に置いて貰っているせめてものお礼であり、彼のお荷物にならない様に、という意味も籠っているが、彼の視界に少しでも映っていられる様に今は1つでも多く彼に尽くしたい。

 今の私と彼は、“他人”でしか無い。同じ屋根の下で暮らそうと、どれだけ言葉を交わそうと、私達の関係を“他人”以外の言葉で語る事は出来ない。

 ――余計な事を、言うべきでは無い。
 ――極力、彼の迷惑にならない様に生きよう。

 その決意は今も揺らぐ事は無いが、彼に抱いた名前の分からない感情はこの3日で驚く程肥大し、図々しくも彼と“他人以上の関係”になりたいと望んでしまった。
 もしそれが叶うのであれば、主人と使用人の様な主従関係だったとしても構わない。そう、今は思っている。

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