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XIV 訪問者-V
「あは、可愛いねぇ、女の子だねぇ」
にやにやと笑うマーシャの視線が、ベッドの下と私の顔を行き来する。彼女は一体、何処から見ていたのか。
そんな彼女の言葉に反論したくても、動悸が邪魔をして喉奥から言葉が出てこない。
「別にそんな所に隠さなくったって、“下着”位誰だって身に着ける物だよ?セディだって、その辺の理解はしてくれると思うんだけどなぁ」
「そ、そんな……」
――そんな事、分かっている。
その言葉は、顔に上る熱の所為で最後まで言い終わる前に止まった。
紙袋の中身は、女性にとって必要不可欠な物。彼女の言った通り、数着の下着だ。
男性であれば、多少足りなくてもどうにか誤魔化す事は出来るだろう。だが女性にとってそれは難しい。
彼があの日私に用意してくれたのは、ドレスなどの衣類のみ。男性であれば尚の事、下着まで考えつかないのは当然だ。ドレスなどの衣類を用意してくれただけでも充分に嬉しい。
だが正直に言ってしまえば少々――いやかなり、自身の中での下着の悩みは大きかった。
いつかは話さなくてはならない事。このままずっと、1着のみで生活していく事は出来ない。セドリックに打ち明けようと決心して仕事から帰ってきた彼と顔を合わせるが、やはり彼の顔を見ると勝つのは羞恥心。そして何も言う事が出来ず、そのまま3日も経過してしまった。
此処へ来た日の翌日、脱ぎ捨てた下着やドレスを彼に畳ませておいて今更恥じらうなどおかしな話だ。それでも、やはり自ら彼に下着の話など出来る筈も無かった。
故に、仮にマーシャに何か意図があったとしても、これ等の物を持ってきてくれた事には感謝してもしきれない。
「まぁお茶会でもしながらさ、ゆっくりお話しよ?」
未だ床に尻餅を付いたままの私に、彼女が手を差し伸べる。その顔にはもう、先程のにやにやとした下劣な笑みは無く、代わりに優しい微笑みが浮かべられていた。
怖ず怖ずとその手を握り、引き上げられるままにその場に立ち上がる。
テーブルの上には、白い湯気の立ち昇る紅茶と、楕円の皿に並べられたビスケットが置かれていた。
質素ではある物の、3日ぶりに口にする紅茶に自然と心が弾む。
「あっ、そういえば!」
席に着いた途端、彼女が何かを思い出したかの様にぱっと顔を上げた。
「名前、まだ聞いてなかったね。聞いていい?」
変わらぬ軽やかな口調でそう言って、彼女の手が皿に並ぶビスケットに伸びる。
――私の、名前。
彼女はあの日、なんの躊躇いも無くフルネームを教えてくれた。それに、自己紹介をする時はフルネームを名乗るのがマナーだ。
私が元貴族の人間だという事を知っているであろうマーシャになら、なんの躊躇いも無く教えられる筈。なのに、自身の口から名前は疎か、言葉の1つも出てこない。
恐怖か嫌悪感か、自分でも分らない。ただその名前を口にする事に、酷い抵抗感があった。
そんな自身の気持ちを知ってか知らずか、彼女がビスケットを頬張りながら徐に言葉を続ける。
にやにやと笑うマーシャの視線が、ベッドの下と私の顔を行き来する。彼女は一体、何処から見ていたのか。
そんな彼女の言葉に反論したくても、動悸が邪魔をして喉奥から言葉が出てこない。
「別にそんな所に隠さなくったって、“下着”位誰だって身に着ける物だよ?セディだって、その辺の理解はしてくれると思うんだけどなぁ」
「そ、そんな……」
――そんな事、分かっている。
その言葉は、顔に上る熱の所為で最後まで言い終わる前に止まった。
紙袋の中身は、女性にとって必要不可欠な物。彼女の言った通り、数着の下着だ。
男性であれば、多少足りなくてもどうにか誤魔化す事は出来るだろう。だが女性にとってそれは難しい。
彼があの日私に用意してくれたのは、ドレスなどの衣類のみ。男性であれば尚の事、下着まで考えつかないのは当然だ。ドレスなどの衣類を用意してくれただけでも充分に嬉しい。
だが正直に言ってしまえば少々――いやかなり、自身の中での下着の悩みは大きかった。
いつかは話さなくてはならない事。このままずっと、1着のみで生活していく事は出来ない。セドリックに打ち明けようと決心して仕事から帰ってきた彼と顔を合わせるが、やはり彼の顔を見ると勝つのは羞恥心。そして何も言う事が出来ず、そのまま3日も経過してしまった。
此処へ来た日の翌日、脱ぎ捨てた下着やドレスを彼に畳ませておいて今更恥じらうなどおかしな話だ。それでも、やはり自ら彼に下着の話など出来る筈も無かった。
故に、仮にマーシャに何か意図があったとしても、これ等の物を持ってきてくれた事には感謝してもしきれない。
「まぁお茶会でもしながらさ、ゆっくりお話しよ?」
未だ床に尻餅を付いたままの私に、彼女が手を差し伸べる。その顔にはもう、先程のにやにやとした下劣な笑みは無く、代わりに優しい微笑みが浮かべられていた。
怖ず怖ずとその手を握り、引き上げられるままにその場に立ち上がる。
テーブルの上には、白い湯気の立ち昇る紅茶と、楕円の皿に並べられたビスケットが置かれていた。
質素ではある物の、3日ぶりに口にする紅茶に自然と心が弾む。
「あっ、そういえば!」
席に着いた途端、彼女が何かを思い出したかの様にぱっと顔を上げた。
「名前、まだ聞いてなかったね。聞いていい?」
変わらぬ軽やかな口調でそう言って、彼女の手が皿に並ぶビスケットに伸びる。
――私の、名前。
彼女はあの日、なんの躊躇いも無くフルネームを教えてくれた。それに、自己紹介をする時はフルネームを名乗るのがマナーだ。
私が元貴族の人間だという事を知っているであろうマーシャになら、なんの躊躇いも無く教えられる筈。なのに、自身の口から名前は疎か、言葉の1つも出てこない。
恐怖か嫌悪感か、自分でも分らない。ただその名前を口にする事に、酷い抵抗感があった。
そんな自身の気持ちを知ってか知らずか、彼女がビスケットを頬張りながら徐に言葉を続ける。
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