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XIV 訪問者-VIII
その場に響いた、マーシャの暗い声。
彼女のその言葉に、冷たい手で心臓を強く掴まれる様な、全身から血の気が引いていく様な感覚に襲われる。
「私達は人から暗殺の依頼を受けて、沢山の人を殺して大金を貰って、更には普通に店に盗みに入ったりもして――」
猫の様に、蛇の様に。カーディナルレッドの瞳の奥の縦長瞳孔が、私を深く捉えて離さない。そして噛み付かれてしまったかの様に、その瞳から目を離す事も出来ない。
「――貴女に用意したそのドレスも、全部盗品」
彼女のその細い指が、私の服を指す。
その言葉が全て本当なら、今まで感じていた違和感の辻褄は全て合致する。
依頼を受けていたのなら、捉えようによっては人助け。階級に見合わない暮らしをしているのだって、上質な服を身に着けているのだって、全ては仕事故の物で、更には盗品だったのであれば疑問は解ける。
「これを聞いた貴女はどうする?屋敷に帰る?」
きつい口調とも、穏やかな口調ともとれる彼女の声。静かな部屋にやけにそれが大きく響いて、動悸を加速させる様だった。
人を殺した人間――所謂殺人者。そんな人と同じ屋根の下で暮らしているなんて、考えるだけでもゾッとする。それに仕事にしているという事は、殺人だって慣れているのだろう。私だって、彼の機嫌を損ねれば何時殺されるか分からないという事だ。
ではどうする?屋敷に戻るか?
まだ此処へ来て、たったの3日しか経過していない。
両親に、「外を自分の足で歩いてみたかった」などと言ってちゃんと謝れば赦して貰えるのでは無いか。
そんな思考が脳裡に浮かぶ。
だが、私が出した答えはyesでもnoでも無かった。
「――私も、そのお仕事のお手伝いが出来る様に頑張るわ」
この言葉が、今の私の全てだ。
自分でも、馬鹿げていると思う。殺人の仕事を肯定するなんて、況してや“手伝う”だなんて。
だが、この服の入手経路が合法じゃない事や、彼等が悪い仕事――殺人や強盗等をしているのでは無いかだなんてもうとっくに考えていた事だ。
勿論、ただの憶測と、本人の口から聞かされるのでは重さが違う。やはり、聞いた瞬間は恐怖を感じ、屋敷へ戻る事も考えた。
だが、それでもセドリックと今以上に“他人”になってしまうのは耐えられなかった。
それに、屋敷に戻った所でどうなるかなんて分かり切っている。もう、この身を削ってあの屋敷に居る事も、愛しても居ない相手の玩具になるつもりも無い。
私は自由になれた。これがその代償なのであれば、私は喜んでそれを受け入れよう。
「――え、待って、本気?」
流石のマーシャも驚いたのか、先程迄の軽やかな口調はどこへやら、緊迫感の滲む声を上げた。
きっと彼女も、私がどういう反応をするかまでは想像出来ていただろうが、手伝うと言われるだなんて思いもしなかったのだろう。
「えぇ、本気よ。――と言っても、私に出来るのは貴女方のアリバイ作り位かしら。私じゃ、隠れ蓑にすらなれないわね」
冷えた指先を温めるべく、ティーカップを両手で包み込む。だが指先にじわりと熱を感じるだけで、中々温まりそうに無い。
昔、恐怖を感じたり、緊張状態に陥ると手足が冷たくなると何かの本で読んだことがある。やはり、少なからず白い自分を黒く染める事に抵抗感を抱いているのだろうか。
自身は一度、自死を選ぼうとした人間だ。首筋に触れた剣先の冷たさは、今でも鮮明に思い出す事が出来る。
人間死ぬ気になれば何だって出来る物だ。あの日死ぬ筈だった私が今此処に生きているのは、全てセドリックと出逢う為だったのならば。
自身が罪人になる覚悟が決まるのも、そう遠くないと思えた。
彼女のその言葉に、冷たい手で心臓を強く掴まれる様な、全身から血の気が引いていく様な感覚に襲われる。
「私達は人から暗殺の依頼を受けて、沢山の人を殺して大金を貰って、更には普通に店に盗みに入ったりもして――」
猫の様に、蛇の様に。カーディナルレッドの瞳の奥の縦長瞳孔が、私を深く捉えて離さない。そして噛み付かれてしまったかの様に、その瞳から目を離す事も出来ない。
「――貴女に用意したそのドレスも、全部盗品」
彼女のその細い指が、私の服を指す。
その言葉が全て本当なら、今まで感じていた違和感の辻褄は全て合致する。
依頼を受けていたのなら、捉えようによっては人助け。階級に見合わない暮らしをしているのだって、上質な服を身に着けているのだって、全ては仕事故の物で、更には盗品だったのであれば疑問は解ける。
「これを聞いた貴女はどうする?屋敷に帰る?」
きつい口調とも、穏やかな口調ともとれる彼女の声。静かな部屋にやけにそれが大きく響いて、動悸を加速させる様だった。
人を殺した人間――所謂殺人者。そんな人と同じ屋根の下で暮らしているなんて、考えるだけでもゾッとする。それに仕事にしているという事は、殺人だって慣れているのだろう。私だって、彼の機嫌を損ねれば何時殺されるか分からないという事だ。
ではどうする?屋敷に戻るか?
まだ此処へ来て、たったの3日しか経過していない。
両親に、「外を自分の足で歩いてみたかった」などと言ってちゃんと謝れば赦して貰えるのでは無いか。
そんな思考が脳裡に浮かぶ。
だが、私が出した答えはyesでもnoでも無かった。
「――私も、そのお仕事のお手伝いが出来る様に頑張るわ」
この言葉が、今の私の全てだ。
自分でも、馬鹿げていると思う。殺人の仕事を肯定するなんて、況してや“手伝う”だなんて。
だが、この服の入手経路が合法じゃない事や、彼等が悪い仕事――殺人や強盗等をしているのでは無いかだなんてもうとっくに考えていた事だ。
勿論、ただの憶測と、本人の口から聞かされるのでは重さが違う。やはり、聞いた瞬間は恐怖を感じ、屋敷へ戻る事も考えた。
だが、それでもセドリックと今以上に“他人”になってしまうのは耐えられなかった。
それに、屋敷に戻った所でどうなるかなんて分かり切っている。もう、この身を削ってあの屋敷に居る事も、愛しても居ない相手の玩具になるつもりも無い。
私は自由になれた。これがその代償なのであれば、私は喜んでそれを受け入れよう。
「――え、待って、本気?」
流石のマーシャも驚いたのか、先程迄の軽やかな口調はどこへやら、緊迫感の滲む声を上げた。
きっと彼女も、私がどういう反応をするかまでは想像出来ていただろうが、手伝うと言われるだなんて思いもしなかったのだろう。
「えぇ、本気よ。――と言っても、私に出来るのは貴女方のアリバイ作り位かしら。私じゃ、隠れ蓑にすらなれないわね」
冷えた指先を温めるべく、ティーカップを両手で包み込む。だが指先にじわりと熱を感じるだけで、中々温まりそうに無い。
昔、恐怖を感じたり、緊張状態に陥ると手足が冷たくなると何かの本で読んだことがある。やはり、少なからず白い自分を黒く染める事に抵抗感を抱いているのだろうか。
自身は一度、自死を選ぼうとした人間だ。首筋に触れた剣先の冷たさは、今でも鮮明に思い出す事が出来る。
人間死ぬ気になれば何だって出来る物だ。あの日死ぬ筈だった私が今此処に生きているのは、全てセドリックと出逢う為だったのならば。
自身が罪人になる覚悟が決まるのも、そう遠くないと思えた。
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