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XV この目に映る物-VII
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「悪い、お前を危険に晒すつもりは無かった」
先程からは想像の付かない、不安げな顔。
「ライリーは俺にとって、…まぁ、その……警戒範囲外の人間だったんだ。だから、少なからず本来の目的を見失っていた所があったんだと思う」
「…ま、待って…ライリーさんの方へ行ってしまったのは私よ。私が悪かったの、ごめんなさい」
彼の言葉を否定するように、首を横に振った。
あの時、ライリーと接触しない方法は幾らだってあった。寧ろ、数ある方法の中から見事に外れくじを引いてしまったとさえ思える。
「いや、お前がライリーの元に行く前に、俺が止めていれば良かった話だ。さっきは少し…考え事をしていて…」
「……考え事?」
あまり、詮索をするべきでは無いと思いながらも、ついそれが気になってしまい彼の言葉を問い返す。
答えたくない事であれば、彼も彼なりに上手く誤魔化すだろう。
彼の瞳を深く見つめると、彼が漸く私と視線を交わらせた。
「……大した事じゃない」
ぽつりと、独り言の様に漏らした言葉。
やはりその“考え事”は私には教えてくれないか、と少々残念に思う裏腹、彼の囁く様な甘い声が私の聴覚を刺激し、鼓動が早鐘を打つ。
先程、私から顔を背けた時とは打って変わった、熱の孕んだ視線と声。その美しい宝石の様な瞳に吸い込まれそうになりながら、お互い深く見つめ合う。
――やはり、彼の事が分からない。
その視線は、声は、何を意味してるのか。期待を、してしまっても良いものなのか。
「…大した事じゃ、無いんだが…」
彼が変わらぬ熱の籠った視線で私を見つめながら、ぼんやりとした口調で言葉を漏らした。収まる事の無い高鳴る心音を感じながら、その言葉の続きをただ只管に待つ。
今の彼の様な、熱の孕んだ視線を向けられる事は社交界では決して珍しく無かった。純粋な熱い視線であったり、下劣な物であったり、込められた感情は様々だ。
だが私はそれ等を、一度だって快く思う事は無かった。自分に値段を付けられている様で、私の背景にある地位や金、名誉を品定めされているようで、ただ怖くて気味が悪かった。
なのに彼にこうして見つめられると、とても心地よく感じてしまうのは何故だろうか。鼓動は高鳴り煩くて仕方ないのに、それは決して不愉快では無く、甘く狂おしく、心の奥底が切なく苦しい。
「…俺は、お前を…」
言葉が続けられると共に、彼の手が私へと伸びた。
私の鼓動が、最高潮に達する。
私が望んだ、他人以上の関係になれるのかもしれない。彼の心が、分かるかもしれない。
そんな期待で満ちた心は、今にも破裂して溢れてしまいそうだった。
「――っ!」
突如、叩きつける様に吹いた強風。身体ごと飛ばされてしまいそうになる強さに、巻きあがるスカートを咄嗟に押さえ目を強く瞑った。
遠くで、バタバタと店の看板が倒れる音がする。それに伴い聞こえてきた、子供や女性の悲鳴。
珍しいと言っても良いであろう突風は、少なからず街に被害を与えた様だ。
風が収まったのを感じ、恐る恐る瞳を開く。
瞳に捉えたのは、普段通りのセドリックの姿。彼の瞳には、もう先程の熱は宿っていない。
時間にすれば、ほんの数秒の出来事。彼に向けられた熱の籠った視線も声も、全て突風に掻き消されてしまい、それ等の物が段々と幻覚だったのではないかと思えてくる。
先程からは想像の付かない、不安げな顔。
「ライリーは俺にとって、…まぁ、その……警戒範囲外の人間だったんだ。だから、少なからず本来の目的を見失っていた所があったんだと思う」
「…ま、待って…ライリーさんの方へ行ってしまったのは私よ。私が悪かったの、ごめんなさい」
彼の言葉を否定するように、首を横に振った。
あの時、ライリーと接触しない方法は幾らだってあった。寧ろ、数ある方法の中から見事に外れくじを引いてしまったとさえ思える。
「いや、お前がライリーの元に行く前に、俺が止めていれば良かった話だ。さっきは少し…考え事をしていて…」
「……考え事?」
あまり、詮索をするべきでは無いと思いながらも、ついそれが気になってしまい彼の言葉を問い返す。
答えたくない事であれば、彼も彼なりに上手く誤魔化すだろう。
彼の瞳を深く見つめると、彼が漸く私と視線を交わらせた。
「……大した事じゃない」
ぽつりと、独り言の様に漏らした言葉。
やはりその“考え事”は私には教えてくれないか、と少々残念に思う裏腹、彼の囁く様な甘い声が私の聴覚を刺激し、鼓動が早鐘を打つ。
先程、私から顔を背けた時とは打って変わった、熱の孕んだ視線と声。その美しい宝石の様な瞳に吸い込まれそうになりながら、お互い深く見つめ合う。
――やはり、彼の事が分からない。
その視線は、声は、何を意味してるのか。期待を、してしまっても良いものなのか。
「…大した事じゃ、無いんだが…」
彼が変わらぬ熱の籠った視線で私を見つめながら、ぼんやりとした口調で言葉を漏らした。収まる事の無い高鳴る心音を感じながら、その言葉の続きをただ只管に待つ。
今の彼の様な、熱の孕んだ視線を向けられる事は社交界では決して珍しく無かった。純粋な熱い視線であったり、下劣な物であったり、込められた感情は様々だ。
だが私はそれ等を、一度だって快く思う事は無かった。自分に値段を付けられている様で、私の背景にある地位や金、名誉を品定めされているようで、ただ怖くて気味が悪かった。
なのに彼にこうして見つめられると、とても心地よく感じてしまうのは何故だろうか。鼓動は高鳴り煩くて仕方ないのに、それは決して不愉快では無く、甘く狂おしく、心の奥底が切なく苦しい。
「…俺は、お前を…」
言葉が続けられると共に、彼の手が私へと伸びた。
私の鼓動が、最高潮に達する。
私が望んだ、他人以上の関係になれるのかもしれない。彼の心が、分かるかもしれない。
そんな期待で満ちた心は、今にも破裂して溢れてしまいそうだった。
「――っ!」
突如、叩きつける様に吹いた強風。身体ごと飛ばされてしまいそうになる強さに、巻きあがるスカートを咄嗟に押さえ目を強く瞑った。
遠くで、バタバタと店の看板が倒れる音がする。それに伴い聞こえてきた、子供や女性の悲鳴。
珍しいと言っても良いであろう突風は、少なからず街に被害を与えた様だ。
風が収まったのを感じ、恐る恐る瞳を開く。
瞳に捉えたのは、普段通りのセドリックの姿。彼の瞳には、もう先程の熱は宿っていない。
時間にすれば、ほんの数秒の出来事。彼に向けられた熱の籠った視線も声も、全て突風に掻き消されてしまい、それ等の物が段々と幻覚だったのではないかと思えてくる。
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