DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XXI 私と重なるその姿-III




「おねーさん、綺麗な服着てんね。結構いい暮らししてるんじゃない?」

 またもや、その問いに答えられず口籠る。
 この街に来て、路上生活者を沢山見てきた。ある者は大道芸をして小銭を稼ぎ、ある者は人助けや手伝いをしてお駄賃を貰い、ある者は盗みを働く。やり方は違えど、皆共通して“今を生きる”事に必死だった。
 なのに、目の前の彼女は違う。生きる事を何処か諦めた様な顔で、ごみ溜めの中でひっそりと膝を抱えていた。

「……何か、あったの?」

 彼女の隣にしゃがみ込み、返答の代わりにもならない問いを投げ掛ける。
 路上生活者に自ら話し掛け、その気持ちに寄り添おうとする人間など居ないだろう。金を恵む事も、仕事を与える事も、住む場所を用意する事も出来ない。それなら、最初から関わらない方が良いに決まっている。いたずらに彼等の心や生活を引っ掻き回すなんて、偽善者よりもタチが悪い。
 だがそれでも、何故彼女はこんなにも“諦観”を感じさせる表情をしているのか、気になって仕方が無かった。
 それはこの国を生きる人間の中で珍しいからか、それとも、いつかの自分に重なるからか。
 良くない事だと思いながらも、それでも今の私は彼女を放っておくことが出来なかった。

「――大切な人に、裏切られたの」

 吐き捨てる様に、再びきつい口調で紡がれた言葉。だがその語尾は僅かに震えていて、表情は切なげに歪む。
 その姿を見て、瞬時に“大切な人”は彼女の恋人だという事が分かった。

「私、此処から離れた街で娼婦やってたの。治安悪い街でさ、働き口とか当然無くて。客1人、1回5ペンス。パン1つ買う為に、身体を売って生きてた」

「――たったの、5ペンスで……?」

「この街なら、もう少し稼げたかもね。でも、この街に街娼は要らない」

 5ペンス。その金額を例えるなら、彼女が言ったようにパン1つ、もしくは林檎等の果物3つから4つ分程だろうか。
 あとは1杯4ペンスで、安酒のジン・ホットが飲めるという話を街で聞いた事がある。動労者階級の中で、最も人気が高い酒なのだとか。
 
 たったの5ペンスでは、宿に1晩泊まる事も、充分にお腹を満たす事も出来ない。だというのに、彼女はその5ペンスの為に、本来大切にするべき物である身体を売っていた。
 誰もが羨むお屋敷暮らしをしていて、更にそこから抜け出した今もそれなりの暮らしをさせて貰っている私には、とても想像が出来ない世界だ。

「――その、“大切な人”ってのさ、元々は客だったんだよ」

 何も言えず黙っていると、静かに彼女が言葉を続けた。

「その人、私がいつも居る場所に何回も来ては私を買ってくれて……。気に入ってくれてるのかな、なんて思ってたら、ある日突然その人から『僕の生活が安定したら、君を迎えに行きたい。だから待っていてくれ』なんて言われちゃって……。私そういうの、今迄言われた事無くって、馬鹿だからさ、本気にしちゃったんだよ。頑張ってくれてる彼の為にもって、私ご飯も充分に食べずに沢山客取ってお金貯めて……、それで、いつか本当に彼と結婚して幸せになれると思ってた。娼婦の私でも、幸せになっていいんだと思ってた……」

 同情か、それとも共感か。次第に小さくなっていく彼女の声と言葉に胸を痛めながら、ただ黙って彼女の話に耳を傾ける。
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