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XXIII あの日によく似たティータイム-II
何故此処まで心が荒んでいるのだろう。こんなもの、彼女にぶつけた所で意味は無いのに。
止まらない自己嫌悪に、唇を噛む。
「セディってね、昔から本当に口数が少なかったの」
静かな部屋に響いた、マーシャの穏やかな声に顔を上げた。
「幼少期は特に。酷い時なんて、数日間声を発さない事もあった。ほんと、声の出し方忘れちゃったのかもって焦った位」
ふふ、と彼女が笑い、懐かしむ様に目を細める。
「この歳になって、仕事を始めて、確かに昔よりかは口数は増えた。けどね、セディが自ら会話をする様になったのって、エルちゃんが来てからなんだよね」
不安にも似た、安堵感。その話をもっと詳しく聞きたいと思う反面、私の知らないセドリックの話を、これ以上彼女から聞きたくないとも思ってしまう。
胸に広がる複雑な感情に、どの様な顔をしていいかが分からず黙ってティーカップに口を付ける。
「家族みたいな存在であった私ですら引き出せなかったセディの顔を、エルちゃんは簡単に引き出せたんだよ。やっぱ、エルちゃんはセディにとって特別なんだなぁ」
――“特別”。
その言葉に、自然と鼓動が早くなる。
だがその瞬間、1つの疑問が浮かび上がった。
「ねぇマーシャ」
「ん?」
「2人は、幼馴染なのよね?」
「うん、そうだよ」
ティーカップをソーサーに置き、浮かんだ疑問を頭の中で繰り返す。
今迄に、何度かそれを疑問に思った事はあった。その度別の事柄に気を取られていた為深く考えた事は無かったが、今になって猛烈に“それ”に興味が湧く。
ティーカップを傾け、透き通った紅茶の色を眺めながらそれを口にした。
「――2人の御両親は、今どうしているの?」
カチカチと響く、規則正しい秒針の音。
私とマーシャの間に流れる沈黙。
ちらりとマーシャの顔に視線を向けると、彼女はテーブルに頬杖を付き、微笑みを称えたまま皿に並んだビスケットを見つめていた。
聞いてはいけない事だっただろうか。人の家庭環境を、安易に詮索するべきでは無かったかもしれない。
謝らなくては、と口を開く。
だが、先に言葉を発したのはマーシャの方だった。
「エルちゃんの御両親、今どうしてるの?」
決して大きくはない、囁くような、柔らかな彼女の声。だがそれは、空気を裂く様な鋭い言葉だった。
両親の現在は、私ですら知らない。だがセドリックもマーシャも、私が此処に来た当時社交界の事や私の家の事を調べていた筈だ。
彼女は、私のどこまでを知っているのだろうか。
全てを見透かしてしまいそうな、奇妙で恐怖心を煽る彼女の瞳。咄嗟に目を逸らし、「ごめんなさい」と慌てて口にした。
「ごめんごめん、そんなに怖がらせるつもりは無かったんだけど。ほら、知らなくてもいい事って世の中にあるでしょ?」
マーシャの瞳には、もう先程の様な鋭さは無い。普段と変わらない、明るい彼女だ。
「私とセディの両親も、知らなくていい事だよ」
柔らかい笑みを浮かべた彼女が、ビスケットを1枚皿から摘まみ上げた。
「エルちゃんの両親の事も、家の事も、私達にとっては知らなくていい事、でしょ?」
マーシャの手が、徐に此方に伸ばされる。そして、指先で摘まんだビスケットを私の唇に触れさせた。
「このビスケット、美味しいんだよ」
――彼女は、本当に私を黙らせるのが上手い。思っている事を全て口にしている様に見えて、決して本心を語らないマーシャは、良き友人でありながらも何処か見えない壁の様な物を感じた。
メアリーが友人から、使用人に戻ってしまった時の様な、そんな言葉にし難い距離間。
本当に心が読めないのは、セドリックよりもマーシャの方かもしれない。
僅かに口を開きそのビスケットを齧ると、彼女が嬉しそうに笑った。
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