DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XXIV 想像もつかぬ未来-I




 触り心地の良い、セドリックの香りが付いたブランケット。硬い、ベッドの上。瞳を開けた先に見える白い天井。
 此処で目を覚ますのは何回目だろう。最早当たり前となったそれに、今日も安堵の溜息を漏らす。
  
 もう屋敷を出てから半年が経ったというのに、未だに今の生活が夢なのでは無いかと思う事がある。
 この半年間は全て私が見た長い夢であり、ふと目を覚ました時には屋敷に戻っているのではないかと。
 だが、今日もこの家で目を覚ます事が出来た。それは何ものにも代え難い安堵である。

 今日のセドリックは早朝から仕事の予定が入っているらしく、昨晩「朝食は必要ない」と言っていた。つまり、今家には1人きりだ。
 
 ――寂しい。
 
 彼の寝顔を見て始まる1日。そんな日々を過ごしていたからか、その感情が溢れて止まらない。
 寝返りを打ち、僅かにベッドに残った温もりに彼の体温を思い描く。

 初めて彼に触れられたのは、屋敷を抜け出した時。柵を飛び越えた私の手を取り、抱き留めてくれた。
 その次は、この家に来た時。私の髪をくしゃりと乱す様に撫で、そしてそのまま頬を撫でてくれた。

 キースと運悪く街中で出会ってしまった時も、私を“妻”と呼んだ事も、叱りながらもきつく私を抱きしめてくれた時も、あの嵐の夜も。
 その感触、声、体温、全てを鮮明に思い出す事が出来る。

 インクが滲む様に、じわじわと胸の中に広がる切なさ。
 ブランケット越しでは無く、直接彼の香りに包まれたい。もう一度、彼の腕に抱かれたい。
 気が付けば、そんな欲が思考を支配する。

「――これじゃあ駄目ね」

 大きな溜息と独り言を漏らし、ごろりと仰向けになった。
 後悔から1日を始めては、決して良い日にはならない。勢いをつけて身体を起こし、ベッドから足を下す。

 私は屋敷を出てから、本当に心が弱くなってしまった様だ。
 今彼の一番近くに居るのは私だと、少なくても彼の視界には入っていると、そう思えたら良かったのに。
 再び溜息を漏らし、乱れたブランケットや布団を丁寧に畳んでいく。

「……?」

 ふと目に付いた、テーブルの上に置かれた1枚の紙。
 そこには、「At 12:00, go to church.《12時、教会へ》」の文字と非常にアバウトなこの街の地図が描かれていた。その中で一際目を引くのは、森の絵と、その森の中心の建物。建物には、小さな文字で“church教会”と書かれている。
 確か、隣町を繋ぐ様に大きな森があった筈だ。屋敷を抜け出した時も、その森を通った。

 どうやら、彼からのお呼び出しの手紙の様だ。直接伝えれば良い物を、何故彼はこんなにも回りくどい伝え方をしたのだろうか。そう思いつつも、私だけの為にわざわざ描いてくれたその手紙が嬉しくて、思わず笑みを零した。

 現時刻は9時30分。指定の時間まではまだ余裕がある。
 彼が何を考えているのかは相変わらず分からないが、いつの間にか先程迄の鬱々とした気持ちは晴れ、心は浮足立っていた。
 どの服を着て行こうか。全て彼が私に買い与えてくれた物だが、初めての彼からのお呼び出しだ。きっと何か特別な事があるに違いない。
 所持している服の中で、一番華やかな物にしよう。そう思いながら、チェストを開いた。
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