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XXV きっと幸せな夢-III
しおりを挟む彼の言葉に、呼吸が止まる。まるで、夢を見ている様だ。
まさか、私はずっと夢の中に居るのだろうか。まだ目覚めていないだけで、此処は夢の中なのだろうか。
こっそりと手を強く握り、自身の掌に爪を立ててみる。
それは、嘘偽りの無い本物の痛み。
間違いなく、これは現実だ。
「――教えてくれ。俺の言葉は、“身勝手”か?ただの、“自己満足”か?」
彼の声が、僅かに震える。私を捉えるその瞳には、不安が浮かんでいた。
だが、自身の瞳にじわりと滲んだ涙で、その顔はぼやけ、見えなくなる。
「……そんな、事、ない」
弱々しい自身の否定の言葉では足りず、強く首を横に振った。その拍子に、浮かんだ涙が頬を伝う。
「身勝手じゃない、自己満足じゃ、無い。だって――」
私の頬を撫でる彼の手に自らの手を重ね、一歩、彼と距離を詰めた。
「――私も、同じ様に思っているから」
涙で、酷く声が震える。伝えたい事は山程あるのに、出てくるのは嗚咽だけ。それ以上の言葉が、何も出てこない。
やはり、これは夢なのでは無いか。彼の掌の熱も、彼の言葉も、爪を立てた痛みも、全て私が作りだした物なのでは無いか。そう、錯覚する。
だが仮にこれが夢だったとしても、彼の言葉に応えたい。私がずっと抱いていた気持ちを伝えたい。いずれ、覚めてしまう夢だとしても。
涙が止まらない中、ゆっくりと顔を上げる。そして、彼と深く視線を交わらせた。
「――私も、貴方を愛してる」
自然と、顔いっぱいに笑みが溢れる。それは無理に作った物でも、愛想笑いなんて物でも無い。
きっと、あの晩バルコニーで彼に向けた笑顔と同じだ。彼が私の言葉に返答してくれた事が、たったそれだけの事が嬉しくて仕方が無かった、あの晩と同じ。
ただ愛おしい人に、彼だけに向ける心からの笑顔。
私の言葉に、彼の表情が切なげに歪む。そして力強く腕を掴まれ、そのまま強引に抱き寄せられた。
体中に広がる、彼の体温。ブランケットや布団越しなどでは無く、直接感じられる彼の匂い。
ずっと欲していたそれ等に、涙は堰を切ったように溢れた。彼に縋りつく様にその背に腕を回し、まるで子供の様に泣きじゃくる。
「愛してるよ、エル」
そんな私を強く抱きしめ、彼が低く囁く。
私の髪や背を撫でる手は何よりも優しくて、まるでその言葉は嘘偽りでも夢でも無いと言っている様だった。
ずっと、想いを寄せていた相手。そんな相手が、同じ様に自分に想いを寄せてくれていた。
――貴方が私を愛していると自覚したのは何時?
――出逢った晩、家の前で私の頬を撫でてくれた時にはもう愛していた?
――私のどんな所を愛していたの?
問いたい事をあげれば、キリが無い。
だが、そんな事今はどうだって良い。私と彼の気持ちが同じだった、それだけで充分だ。
背に回した腕に力を籠め、彼の胸元に顔を押し付ける。
もう、彼を見つめる意味を探す必要は無い。彼に、触れる理由を考える必要は無い。
ただ愛しているから、それだけで全てが許される。
そんな気がした。
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