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XXVIII 小さな劇場前にて-II
「――いつまで手を握ってるつもりだ」
不機嫌さを露にしたセドリックが、パシ、と私と彼――ジャックの握手を手刀で切る。
「ああ、悪かったよ。随分可愛い子だったから、離すのが惜しくなってしまって」
ジャックがそう言って笑うのを尻目に、セドリックが舌打ち混じりに溜息を吐く。
彼はよく笑う人だ。表情の少ないセドリックとは対照的だと言えるだろう。
だがジャックが何かに気付いたのか、ふとその顔から笑みを消した。
「――アンドールと言ったか?」
投げられた問いに、小さく頷く。
「――セドリック、もしかしてこの子……」
「あぁ、俺の妻だが」
然も当然かと言う様に、セドリックが淡々と答える。ジャックはその事実が余程衝撃だったのか、大層驚いた顔をしていた。
「お前、女の趣味変わったのか?」
「女の趣味なんか最初からねぇよ」
「嘘つけ、昔からよくブロンド髪の嬢さんと歩いてたじゃねぇか。あの子は彼女と正反対な印象があったが……あの子とは別れたのか」
「ブロンド髪の嬢さん……?誰の事だ、見間違えだろ」
先程からの、彼等の会話。男性同士ではよくある物なのかもしれないが、妻である自分が聞くには耳が痛い話だ。ジャックの言葉が先程から私の胸を抉り、つい耳を塞ぎたくなってしまう。
考えてみれば、私はセドリックの過去を何一つ知らない。彼がどんな人で、どんな人達と関わり、どんな仕事をしているのか。
女嫌いだと聞いていたが、実際その理由だって知らなかった。
もしかすると、セドリックには過去に恋人が居たのかもしれない。いや、今だって私以外に関係を持っている女性が居ないとは言いきれないだろう。既婚でありながら、数人の妾(めかけ)が居る男性は決して珍しくないと、この前ライリーから聞いた。故に、セドリックの事をしっかりと見張っておけ、とも。
もやもやとした考えは止まらず、嫉妬や羞恥、自信の無さ等が入り交じった言葉にし難い黒い感情に苛まれる。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼が徐に私の肩に腕を回し、優しく抱き寄せた。
「今日は妻と過ごす大切な日だ。邪魔しないでくれるか」
彼が少々きつい声音で、ジャックに言い放つ。その声に、ジャックが顔を強ばらせた。
「それは、悪かった。でも、実はお前にちょっと用があってな」
だがジャックは引き下がること無く、私達に1枚のチラシを差し出した。
「それ、今じゃないと駄目なのか」
「時間が無いんだ。今聞いてくれると助かる」
鬱陶しいとでも言うように、セドリックが再び溜息を吐く。そして私に視線を向け、「悪いが、少し話してもいいか」と尋ねてきた。
プレゼントは買い終え、もう残した事は無い。この後も、自宅に帰るだけだ。
彼に肩を抱かれたまま、小さく頷く。
それを確認したセドリックが、渋々とジャックからチラシを受け取った。そのチラシを、彼と共に覗き込む。
「World famous diva Alice Blanchett Mini concert……?? 《世界的歌姫、アリス・ブランシェット ミニコンサート……?》」
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