DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XXX 不安の証拠-III

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 自宅のベッドの上。僅かに苛立ちが残ったまま、瞳を開く。
 今日はやけに寝付けない。色々と深く、考えていたからだろうか。無意識的に左手の薬指に触れ、溜息を漏らす。

 今は、何時頃だろうか。眠った感覚は殆ど無いが、きっとベッドに入ってからある程度の時間が経過しているに違いない。そう思い、時計を見ようと寝返りを打った。

「――!」

 だが、目に入ったのは時計では無く、最愛の夫の寝顔。いつの間にか、帰ってきていた様だ。
 知らぬ間に、深い眠りにでもついていたのだろうか。彼が帰ってきて、更には同じベッドで眠っていたという事に全く気が付かなかった。
 こうして彼が隣に居る感覚がやけに久しく感じ、鼓動が速くなる。

 壁時計に目を遣ると、深夜の2時半を指していた。コンサートの前日だからか、今日は普段より早めに帰ってきた様だ。
 彼を起こさぬ様に、彼の掌に自らの掌を重ねる。

 あの口論があった後、彼とは1度も会話をしていない。テーブルに突っ伏した私に彼が声を掛けた時、顔を上げていれば良かったのだろうか。
 今から考えてみると、そんな気さえしてくる。

 ゆっくりと身体を起こし、彼の顔を正面から見つめた。不防備な寝顔に、開いたシャツの襟元。白い、首筋。

 ――これは不安の表れか、それとも悪戯心か。

 どちらにせよ、褒められた行為では無い。そんな事、分かっている。
 彼の首筋にゆっくりと顔を近づけ、その白い首筋にキスを落とした。その薄い皮膚を少し口に含んで、食む様に、ついばむ様に、“跡”を付ける。

 私は、彼の様に上手くない。その為、付けた跡は決して美しい物とは言えない。幾ら皮下出血の跡だったとしても、これ程下手な物であれば誰も“所有印”だなんて気付かないだろう。

 彼の、左手の薬指にそっと指を這わせた。当然、指輪は無い。
 彼は私の物だと、証明出来る物が何も無い事が悲しく、じわりと涙が滲んだ。

 夫婦だと書類上で証明されたとしても、私達が愛し合った証は無い。彼は優しく、私を大切にしてくれていたけれど、それだって私が彼を愛している気持ちとは一致していないかもしれない。

 愛とは、一体なんだろうか。

 屋敷に居た頃の愛読書、とある男性に恋焦がれた女性の言葉「貴方が居ればそれでいい」。
 当時はそれを理解していた筈なのに、今の私には彼女の言葉がとても悲しい物に思えた。
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