DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XXXVI 普段と違う朝-II




 今日のこの割れそうな頭痛と倦怠感、喉の渇きは明らかに異常だ。
 体調不良を起こした際、特に風邪を引いた時など、味が感じづらくなる事があるだろう。それと同様に、この味の不快感には自身の体調不良も少なからず関わっている様に思えた。

 そろそろ、セドリックも起きてくる頃合いだろう。彼の反応を見れば分かる事だ。
 沸き上がる不安を掻き消す様にそう自身に言い聞かせ、新しく水を汲み直したグラスを片手にベッドへ足を向けた。


「あら、おはようセドリック。起きていたのね」

 いつから目を覚ましていたのか、ベッドの上には何処か虚ろな表情をしたセドリックが座っていた。
 グラスを落とさない様しっかりと手に持ち、彼の隣に腰掛ける。すると彼が、表情を歪ませ私の肩に額を乗せた。

「……頭いてぇ」

 肩から聞こえる苦し気な声。僅かに残る酒のニオイに、彼のその頭痛は昨晩の酒の所為だと覚る。

「お酒の飲みすぎよ。あれだけ飲めば、体調を崩すのは当然」

 呆れ半分に呟き、彼の頬をそっと撫でた。

「幾らお酒に強くても、摂りすぎは毒になるから程々にね」

「……そんな飲んでた?」

「覚えていないの?」

 彼の視線がテーブルの方へと向く。
 テーブルの上には、スコッチの空き瓶とグラスが無造作に置かれたままだ。それ等を見て、飲んだ酒の量を察したのだろう。再び私の肩に顔を埋め、「そこまで飲むつもりじゃなかったんだが……」と枯れた声で呟いた。


「お酒の事はもういいわ。そんな事より今日の水、少し変なの」

「水?」

 怪訝な顔をした彼に、手に持ったグラスを差し出す。
 徐に私からグラスを受け取った彼が、やや躊躇いながらも鼻を近づけ水のニオイを嗅いだ。そしてグラス越しに色を眺め、ゆっくりと水を口に含む。

「上手く言葉に出来ないのだけど……、貴方は何も感じない?」

 彼が言葉を発するまでが、やけに長く感じる。
 水に問題があっては困る。日常生活に水は必要不可欠であり、料理や飲水にも支障が出てしまうからだ。
 しかし、自身の体調も気がかりだった。ズキズキと脈打つ頭痛に、目が回りそうな眩暈。起き抜けからは大分良くなったが、それでも不調は未だ自身を苛み続けている。

 返事を待つ事数十秒。彼の表情に、答えは凡そ見当が付いていた。

「……特に、何も」

 先程と同じ怪訝な表情を浮かべ、彼がぽつりと呟く。

 予想通りと言うべきか。言葉にするのなら、“やっぱり”の一言。
 首を傾げ再び水を口に含んでいる彼を尻目に、やはりこれは自身の体調不良が齎す物なのだと確信する。

 咳や鼻炎などの症状が無い為、風邪とは考えづらい。この頭痛や眩暈、倦怠感も発熱時特有の物であるが、発熱といっても少々身体が火照った様に感じるだけであまり高熱だとも思えなかった。
 先程迄は自身の体調が関わっているのではないかと了見していたが、考えれば考える程味覚に異常が出る程の不調では無い様に思えてくる。それこそ、質の悪い流行病や感染症等で無い限り。

 ふと、脳裏を過ったとある可能性。
 一度頭に浮かんだだけなのに、妙に思考に絡みついて離れない“それ”は、結婚した女性であればいずれ直面する事だ。
 しかし、私がそれに直面するには随分と早い。
 まるで物語を読んでいる様な、他人事の様な。あまりに現実的では無い“それ”は、何故だか気持ちが悪い程に私の頭を回り続ける。
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