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XXXVII 奇妙な夢-III
しおりを挟む『――でも、大丈夫。私が居ます。私がいつまでもお嬢様の“友人”で居て差し上げましょう』
彼女が普段通りの優しい笑みを浮かべながら、その丸椅子をゆっくり持ち上げ、そして頭上へ振り上げた。
『でも、そうですね……。“友人”で居るには、邪魔な物が多すぎる様です』
「まって、まってメアリー、話を聞いて頂戴!」
視界が歪み、そしてぐるぐると回る様な眩暈に襲われる。それは恐ろしくて、おぞましくて、このまま死んでしまうのではないかという恐怖に苛まれた。
どれだけ逃げようとしても、右手首に巻き付いたチェーンが邪魔をする。
「――メアリー、メアリー、聞いて、お願い」
スローモーションの様に、ゆっくりと自身に向かって振り下ろされていく丸椅子。
咄嗟に、空いた左腕で自身のお腹を庇い身を丸めた。
その瞬間。
腕に巻き付いていたチェーンから、カチ、と妙な音が聞こえた気がした。
◇ ◇ ◇
額や背中等、全身を濡らす汗。張り裂けそうな程早鐘を打つ心臓に、乱れる呼吸。
瞳を開いた先は、見慣れた天井だった。そして視界の隅に映る、良く知った女性の姿。
「――マーシャ?」
息も絶え絶え声を掛けると、その女性が振り返った。
普段と変わらない彼女――マーシャの顔に、心中が安堵で満たされる。
「あぁ、エルちゃん起きた?随分と魘されてたけど、大丈夫?」
優しく、穏やかな声。私の髪をふわりと撫でるその手に落ち着きを取り戻しつつ、瞳を閉じ小さく頷く。
酷く、苦しい夢だった。まるで現実の出来事なのでは無いかと思ってしまう程、鮮明な夢。
メアリーの事は、もうずっと前から考える事をやめていたと言うのに、何故こんな時に彼女の夢など見てしまったのだろうか。
彼女の笑顔も声も脳裏に強く焼き付き、まるで本当に彼女と会話を交わしている様だった。これ程鮮明な夢を、今迄に見た事があっただろうか。未だ、夢だという事が信じられない。
そんな事を悶々と考えていると、ひんやりとした手が額に触れた。
「熱はまだ少しあるみたいだけど、思ってた程じゃないな。良かった」
まるで私の思考を断ち切ってくれる様に、マーシャがふふ、と優しく笑う。その笑顔を見ていると、徐々に脳があれはただの夢だったのだと理解し、動悸も呼吸の乱れも落ち着いてくる。
「私じゃなくて、セディの方が良かったよね。ごめんね、来られなくって。ちょっと急ぎの調べ物があってさ」
「――調べ物……?仕事では無くって?」
思わずその疑問を口にすると、彼女の顔色が僅かに変わった。
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