DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XXXIX 狂いそうな愛情-V

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 こんな状況、普通じゃない。彼が私に乱暴をした事等、過去に一度だって無かった。これは明らかに、嫉妬の域を超えた“怒り”である。
 だと言うのに、彼の手の強さはメアリーの夢を忘れさせてくれる様で、何処か心地よく感じた。

「――いつまで、その男の話をするつもりだ」

 低い、彼の声。私を見つめるその瞳は冷たく、私が想像するより遥か上を行く怒りが籠っている。
 少し、悪戯が過ぎてしまったかもしれない。彼を此処迄怒らせるつもりは無かった。

「……ご、ごめんなさい」

 彼の視線から逃れるように顔を反らし、ぽつりとそれを口にする。
 だが彼はそれを許す事無く、乱暴に私の顎を掴み視線を合わせた。

「――随分とその男を気に入っている様だな」

「ち、ちがっ……」

「違くないだろ。食事の約束までするなんて、そんな事俺が許すとでも思ったのか」

「……彼は、貴方も一緒にって……だから、2人きりじゃ……」

「そういう事を言ってるんじゃない」

 力強い彼の声に、びくりと肩が揺れる。

「――その男の事は忘れろ。もう二度と、俺に他の男の話はするな」

 彼の指先が、するりと頬をなぞった。そしてもう怒りなど感じさせない程、優しく私にキスを落とす。

「――じゃないと、お前をこの家に閉じ込めておかないといけなくなる」

 私に語り掛ける声は、今迄に聞いた事が無い程の甘い猫撫で声だ。その瞳からは怒りが消え、今度は私を甘やかすような優しい眼差しに変わる。
 指先は痺れを感じる程に冷えていき、足は立っていられない程に酷く震える。そんな私を支える様に、彼が私の腰に腕を回しそっと抱き寄せた。

「――返事は?」

 耳元で囁かれる、低い声。それは何よりも優しい声音だと言うのに、決して拒絶をさせない威圧が籠っていた。

「……は、い」

 消え入りそうな声で何とか返答し、震えの止まらないまま彼の腕の中で頷く。

「――いい子だ」

 変わらずの甘い声で囁き、彼は満足した様に私の髪を撫でた。そして私から身体を離し、何事も無かったかのように普段と同じ足取りで脱衣所へと消えていく。
 そんな彼を尻目に、壁に背を付けたままずるずるとその場に崩れ落ちた。震える身体を両腕で抱き、瞳から涙を零しながら小さく蹲る。

 今の私を襲う感情は、恐怖か、嫌悪か、それとも罪悪感か。
 どれも、違う。
 身も心も震え、涙が止まらなくなってしまう程の甘心だ。

 ――あぁ、こんなにも満たされた事は過去にあっただろうか。

 呼吸は浅く、息が詰まる。なのに口角は上がり、笑みが抑えられない。
 このまま果ててしまうのではないかと思う程、身体は甘い熱に支配される。
 “嫉妬”。それは私がとても望んでいた物。後ろから抱きしめて、私を引き止めて、もっと不満げな声を漏らして欲しかった。だが、彼は私の望み以上の事をしてくれた。
  
 背に感じた衝撃も、手首に残る痛みも痣も、全て彼の“愛情”である。
 愛の無い拘束とは違う。自分を満たすための支配欲なんて汚い物では無い。全ては私への愛が齎した行動。つい暴力に訴えてしまう程、彼はあの青年に嫉妬していた。
 嫉妬とは、なんと甘美な感情だろうか。このまま彼の愛に溺れて、壊れてしまいたくなる程に狂おしい。

 もっと彼を追い詰めれば、彼は再びその強い愛を私に向けてくれるだろうか。
 彼は私に、気を狂わせてくれるだろうか。

 ――そういえば。
 現在ロンドンで起こっている連続婦女暴行事件。彼はその事件を、特別気に掛けている様だった。
 私がもし、例の事件に巻き込まれたとしたら、彼は一体どうなってしまうのだろうか。

 気を狂わせてでも尚、今まで通り私を愛してくれるか。
 それとも犯人である男をその手で殺めるか。
 もしくは、私と共に命を絶つか。

 ――もっと、もっと、苦しんで。私に尽くして。壊れる位、深く愛して。
 彼の代わりなど存在しない。彼じゃなきゃいけない。
 もし彼が苦しみに耐えきれず私から逃げようとしたとしても、絶対に逃がさない。
 だって、この家に閉じ込めてしまいたい程に愛しているのは、彼では無く私の方なのだから。

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