DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XL 自問-I





 11月半ば、季節は冬。
 普段より1時間以上も早い朝の7時、空気の冷えたキッチンで作るのは1人分の朝食。寒さに耐えながら、黙々と手を動かす。
 そんな私を苛むのは、かつての朝を思い出させる酷い頭痛と眩暈。色取り取りの野菜を見ても一切食欲が湧かず、料理のにおいに吐き気までをももよおす。

「――大丈夫か?」

 そんな私の様子に気付いたのか、セドリックが心配気な表情を浮かべ私の顔を覗き込んだ。

「――ええ、大丈夫……」

 答えた声は掠れ、今にも消えてしまいそうな程小さい。だが、現在の私にはその返答が精一杯だった。
 唇が僅かに震える程に、身体が冷え切っている。なるべく多くの衣類を重ね着込んでいるのに、身体が温まるどころか徐々に体温が奪われていく様な気さえしていた。

 起床時は、此処まで頭痛も眩暈も酷くは無かった。故に、朝食の用意位なら出来ると思って始めたが、次第に頭痛は酷くなっていき、終いには異様な手足の冷えから料理の盛り付けさえうまく出来なくなってしまった。
 フライドエッグにソーセージ、彩りで野菜を並べた簡単な朝食。だが、何処か纏まりが無く子供が盛り付けた様な見た目だ。どうやっても上手く動かせない指先に溜息を吐く。

 出来ない物を、幾ら粘っても仕方が無い。盛り付けは食べる相手の事を考えて行われる物でもあるが、此処まで来ると最早作り手の拘りである。
 それに彼が家を出る時間も迫っており、これ以上時間を掛ける事も出来そうに無かった。

 朝食をテーブルへ運ぼうと、ダッジブレッドを数個入れたバスケットと皿を両手に持つ。私は体調不良の為朝食をとる事が出来ないが、共にテーブルに着くだけでも大分違うだろう。だが、あんまりにも彼を見つめていると彼も食事がしづらいだろうか。
 そんな事をぼんやりと考えながら、テーブルの方へ向かう。

「――……」

 丁度、キッチンとテーブルの中間あたり。突如ぐらりと、回転する様な眩暈に襲われ足を止めた。
 両手には、料理の乗った皿とバスケット。このまま倒れてしまっては大変だ。
 恐怖と不快感に心臓は早鐘を打ち、呼吸は浅くなる。
 テーブルはすぐ目の前。手を伸ばせば届く距離だ。早くテーブルに皿とバスケットを置いて、椅子に座ろう。少し休めば収まる筈だ。
 だが、意志と相反して足は直立したまま動かない。

「――エル、どうした」

 異変を感じ取ったのであろうセドリックの声が、やけに遠くで聞こえた様な気がした。
 ズキズキと脈打つ音が耳の奥で響き、次第に視野が萎んでいく様に暗くなっていく。

 しまった、と思った時にはもう遅い。自身の身体は傾き、手から皿とバスケットが滑り落ちた。
 音を立てて割れる皿に、足元に転がるバケッド。
 早く落としてしまった朝食を片付けなければ、カーペットが汚れてしまう。それに割れた皿を放置しておくのも危険だ。
 だがそんな思考と裏腹に身体は自立せず、落ちた朝食同様、地面に身体は吸い寄せられていく。

「――エル!」

 彼が私の名を呼んだの同時に、身体が温かな何かに包まれた。
 鼻腔を抜ける、甘く苦い良く知った香り。それは紛れも無くセドリックの物だ。私を抱く彼の腕とその香りに、彼が咄嗟に私を抱き留めてくれたのだと覚る。
 ごめんなさいと謝る事も、私は大丈夫だと言う事も出来ない。意識は遠のくばかりで、動かした唇から声が出る事は無かった。

 ぐるぐると回る眩暈は、未だ収まる事無く私を苛み続ける。
 暫く経てば、収まるだろう。大した事無い筈だ。ただの体調不良の一種で、何も問題は無い。
 そう何度も頭の中で繰り返すが、そんな考え虚しく、糸が切れた様にプツリと意識が途絶えた。
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