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XLIII 吐露-III
しおりを挟むその事実が悲しくて、苦しくて、思わずガタリと大きな音を立て椅子から立ち上がった。その拍子に椅子が倒れ、手に持っていたシャツが床に落ちる。
そしてそのまま、逃げる様に玄関の方へ足を向けた。
逃げてはいけない。彼に自分の口で話さなくてはならない。
だが今は、少しだけ冷静になる時間が欲しい。少しだけ、1人になって落ち着きたい。
でないと、言わなくていい事さえも彼に言ってしまう気がした。
「――エル、待て。ちゃんと話を……」
彼に腕を掴まれ、玄関へ向かおうとした足が止まる。
酷い動悸と緊張感、自身を襲う怖気。身体は震えだし、呼吸は浅くなる。
彼の顔を見るのが怖い。だが、もう逃げられない。逃げちゃいけない。
そう頭では分かっているが、心が話す事を拒絶してしまいどうしても逃げる方へ気持ちが向いてしまう。
「……少し」
涙に濡れた顔を、彼に向ける。
――少し、時間が欲しい。
そう告げようと、口を動かす。
だが、喉奥から声が出る事は無く、身体がふらりと後ろへ傾いた。
足元がぐにゃりと湾曲する様な感覚と共に、視界が歪みだす。倒れてしまったあの日の朝とはまた違った、気妙な眩暈。
強制的に身体から意識を抜き取られてしまう様な、不思議な感覚だ。
まるで糸を切られた人形の様に、その場に崩れ落ちる。
咄嗟に、セドリックが抱き留めてくれたおかげで床に叩き付けられずには済んだ。だが、閉じた瞳は自身の意志で開く事は出来ず、私を呼ぶ彼の声は徐々に遠くなっていく。
そんな中、私はこの状況に僅かに安堵していた。
これで、少し冷静になる時間が作れる。これで少しの間1人になる事が出来る。意識が無かったとしても、この状況から逃げる事が出来るような気がしていた。
◇ ◇ ◇
ゆらゆらと、下る様に意識が覚醒する。
ベッドに横になっているのに、船酔いをしている様に眩暈がしていて気分が悪い。
あれから、どのくらい時間が経ったのだろうか。
意識を失っていた為1人になったという感覚は無い。だが、先程よりも大分気持ちは落ち着いていた。少し、冷静にもなれた様に思える。
そんな時、ふと頬に何かが触れる感覚がした。頬を包み込むそれは大きくて温かく、すぐさまセドリックの手だと言う事を覚る。
傍に感じるセドリックの気配。早く瞳を開いて、彼と話をしなければ。冷静になった今なら、きっと話が出来る筈だ。
だが、やけに瞼が重い。まるで目元のみ力が抜けてしまった様に、瞳を開く事が出来なかった。
それに、頬に感じる彼の手の温もりが心地良く、このままもう一度眠ってしまいたくなる。
しかし、そんな私を呼び起こそうとする様に彼が私の名を呼んだ。
その声はとても優しく、何処か寂し気だ。そんな声で呼ばれてしまえば、瞳を開かざるを得ない。
彼と話をする覚悟が完全に決まった訳では無いが、これ以上先延ばしにした所で意味が無いのだ。
不安が沸き上がるのを感じながら、目元に力を籠めた。
「――……」
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