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XLIII 吐露-IV
しおりを挟むだが、その瞬間彼の手が頬から離れた。予期せぬ動きに気持ちが揺らいでしまい、瞳を開く事が出来ずそのまま彼の行動に意識を向ける。
彼が頬の次に手を触れさせたのは、私の左手。そのままゆっくりと持ち上げられ、空の薬指に何か柔らかな物が押し当てられた。
その感触には、覚えがある。セドリックにされるのは初めてだが、社交界では何度もされた事だ。
「セドリック……?」
ゆっくりと瞳を開き、ベッドの脇に座る彼に視線を投げかけた。部屋を照らす灯りが瞳を刺し、その眩しさから僅かに目を細める。
「……体は大丈夫か?」
「……ええ、今は平気。心配掛けてしまってごめんなさい」
彼の手は直ぐに左手から離されてしまい、結局彼が何を思って薬指にキスを落としたのかは分からなかった。だが、慈しむ様に私を見つめながら髪を撫でる彼の姿に、自然とその疑問が消えていく。
私達の間に流れる沈黙。
言葉は交わさず、ただお互い見つめ合うだけの時間。それはとても心地よく、心の不安が溶けていくのを感じる。ずっと、こうして居たい位だ。
だが、今は彼と話をしなくてはならない。自身の口で、妊娠を伝えなくてはいけない。
乾いた喉を潤す様に唾液を飲み込み、口を開いた。
「――セドリック、あのね」
言いかけた言葉。しかしそれは、私の唇に触れたセドリックの指に制された。
「マクファーデンといったか。話は、全部あの医者から聞いたよ」
彼の指が私の唇から離れ、徐に私の額に掛かった前髪を払う。
「……気付いてやれなくて、悪かった」
ぽつりと、嘆く様に。彼は私の瞳を真っ直ぐ見つめたまま、誤魔化す事無くその言葉を告げた。
彼に非は一切無い。悪いのは全て私だ。だが、瞳に浮かんだ涙が邪魔をして、言葉が出てくる事は無かった。
代わりに、首を横に振りその言葉に否定を示す。
「……俺は人と関わる事が得意じゃないし、子供の相手をするのも慣れてない。だから、子供にとっていい父親になれるかは分からない。だがそれでも、子供が出来たって聞いた時、俺は嬉しく思った」
瞳に浮かんだ涙は溢れ、次々に伝い落ち枕を濡らす。
あの女性の言葉が、今漸く分かった。自身の思い込みは、他者の人生までをも滅ぼす。
私は何度、子供が流れてしまえばいいと願っただろう。何度、セドリックは子供を拒絶すると思い込んだだろう。
私の想いは、考えは、何一つ正しくなかった。彼は子供を喜んでくれていたのに、私は彼の事を何も考えずにただ1人で不安になって、挙句流れてしまえばいいと願った。
込み上げる自己嫌悪。だがそれと同時に深い安堵が自身を満たし、涙は止まる事無く溢れる。
「――お前は、そうじゃなかったか?」
私に問う声は、囁き掛ける様でとても優しい。だが、その声には僅かに不安が滲んでいる様に感じた。
不安なのは、私だけじゃない。
悩んだのも、苦しんだのも、彼も同じだ。
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