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XLIV 穏やかな時間-I
美しくも儚い粉雪が、はらはらと舞う12月の下旬。
窓の外は一面の銀世界。きっと一歩でも外へ出れば、その雪の冷たさが凶器の様に身体を刺すのだろう。
しかし、暖炉を焚き室温の上がった部屋の中からは、それ等がとても美しい物に思えた。
セドリックに妊娠を打ち明けて約1ヵ月。
彼は今迄以上に過保護になり、仕事の予定を入れず私と共に家で過ごしてくれる日がとても増えた。
だが彼は表情が乏しく、何を考えているのかが分からない事は変わらない。相変わらず他人には無頓着であり、共に街へ買い出しへ行った際にも、あまりの無表情に店の人に怖がられてしまう事が多々あった。
それでも彼の日頃の行動を見ていれば、あの日私と身籠った子を受け入れてくれた言葉に嘘偽りが無い事は分かった。
暖炉の前に座り、私を背後から抱く彼に凭れ掛かる。
腕の中には柔らかなクッション、身体を包むのは彼の体温とお気に入りのブランケット。時々私の頬や髪を撫でてくれる彼の手と暖炉の温かさも相まって、瞳を閉じうとうとと現実と夢の間を彷徨う。
すると彼が徐に、私の腕を優しく摩りながら袖を捲って肌を露出させた。暖炉の火に照らされてオレンジに色を変えた腕は、自身から見ても妊娠や出産に耐えられるのかと疑問視する程に細く思える。
「――細いな」
私の腕を撫でながら、彼がぽつりと呟いた。その声には、僅かに心配の色が滲んでいる。
「貴方にずっと愛されていたいから、なるべく綺麗で居たいの」
そう笑って応えると、彼が複雑な表情を浮かべながら私の顔を覗き込み、そっと触れるだけのキスを落とした。
体型を維持する事は、屋敷に居た頃から徹底していた為慣れている。勿論、妊婦は胎児の分まで栄養を摂らなくてはならない為、それが好ましくない事は理解していた。しかし、女性は細ければ細い程美しい、という考えは一般的であり、事実でもある。故に、セドリックに少しでも綺麗だと思って貰えるように体型の維持を心掛けていた。
「マクファーデンにも、もう少し体重増やせって言われてただろ。どんな姿でも、お前が綺麗な事には変わりない」
「マクファーデン“先生”、ね。私達の子を1番に考えてくれている先生なんだから、もっと敬意を払わないと」
「本人の前ではそう呼んでる」
「――そう言う事では無くって……」
呆れ半分、セドリックらしい返答だと笑みを零す。
他人に無頓着なのか、それとも単に礼儀知らずなだけか。それは主治医に対しても変わらないらしい。
せめて主治医に位は敬意を払って欲しいものだが、逆にセドリックが愛想良く周囲の人間に敬意を払う様になったら怖い位だ。
本人に無礼が無い様にしているのなら、多少大目に見るべきだろうか。
そんな事を考えていると、彼が私を抱く腕に力を籠め、首元に顔を埋めた。
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