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XLVI 指輪-I
しおりを挟むふわふわと、夢と現実を行き交う朝。まだもう少し眠っていたい、あと少しだけ、なんて言い訳をしながら枕に顔を埋める。
眠っている時間よりも、こうして言い訳をしながら微睡む時間の方が心地良く感じてしまうのは何故だろうか。
早く起きて行動しなければならない朝に、こうしていつまでもベッドの中に居る。それに深い背徳感を抱いてしまうというのに、心地良さを感じてしまうだなんて不思議だ。
ふと、脳裏に浮かんだのは昔モーリスから聞いた雑学。背徳感や罪悪感は、人に一種の快楽を与えるらしい。更には、“睡眠”は人間の三大欲求の1つでもある。
二度寝に心地良さを感じてしまうのは、それ等が関係しているからなのだろうか。
低下した思考力でそんな事を考えながら、眩しく感じる陽の光から逃げる様に布団の中へと潜り込んだ。
そんな私の耳に届いたのは、陶器が擦れ合う音。その音に、今日はセドリックが仕事の予定を入れず1日家に居てくれる日だという事を思い出した。
彼は今も変わらず、私の身体を気遣ってくれている。まるで壊れ物に触れる様に私を扱い、検診には必ず付き添い、バスケット以上に重い物は持たせてもらえない。過保護すぎると指摘をしても、セドリックは「自分がそうしたいから」と言って全く聞く耳を持たなかった。
更には、私が1人にならずに済む様に少しでも仕事減らそうと、頑張ってスケジュールを調整してくれているらしい。それはこの前、家に様子を見に来てくれたマーシャから聞いた話ではあるが、マーシャ自身もセドリックがそこまで徹底している事には非常に驚いた様だった。今のセドリックならきっと良い父親になれると、マーシャも嬉しそうに言っていた。
それに、変わった事はそれだけでは無い。
今日の様に1日仕事の無い完全な休日といえば、彼は昼まで目を覚ます事は無く、1日をベッドの上で過ごしていた。だというのに、妊娠を告げてから彼は私よりも早く目を覚まし、私だけの為に紅茶を淹れてくれるようになった。
私が目を覚ますタイミングでカップに注がれた紅茶は、起き抜けの身体を温めるだけでなく、心迄をも癒してくれる。
そして彼は、英国人の鑑と言える程紅茶に詳しいマーシャを幼馴染に持っているからか、紅茶を淹れる事が人よりも上手かった。本人曰く“これが普通”らしいが、彼が淹れてくれた紅茶は自身で淹れた物よりも香りが良く味も良い。
今日も、彼は私よりも早く目を覚まし、紅茶の支度をしてくれている様だ。二度寝をやめ、寝返りを打ちキッチンに立つ彼を眺める。
本当に、過去の彼からは想像できない姿だ。彼から与えられる深い愛情に、甘心で満たされていくのを感じながら1人笑みを零した。
「――おはよう、セドリック」
ゆっくりとベッドから身体を起こし、丁度紅茶をカップへ注ぎ終えた彼に声を掛ける。此方を向いた彼に微笑み掛けると、相変わらず表情の乏しい顔で「おはよう」と一言返ってきた。
そんな、普段と変わらない彼の姿。しかし、たった1つだけ普段と違う物があった。
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