DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XLVIII 心労-III





 セドリックは外へ仕事に出て、私達を養ってくれている。それに引き換え、私は何も出来ていない。家事をやると言っても、子育てを理由に街へ買い出しには行けておらず、更にはレイ1人あやす事も満足に出来ない。
 ならせめて、料理位はセドリックが満足する物を出さなくてはならない。

 元はと言えば、私がセドリックの家に無理に押し掛けてしまったからこうなってしまったのだ。
 本来であれば、彼は今も1人自由に生きる事が出来ていた筈だ。しかし彼は無理を言う私の手を取り、あろう事か私の事を愛してくれた。そして私を妻にし、子供まで受け入れてくれている。

 仕事だって、決して楽なものではないだろう。マーシャから良く愚痴を聞くため、ブローカー業の大変さは理解しているつもりだ。
 そんな中、私と娘2人を文句1つ言わず養い、労いの言葉を掛けてくれる彼には感謝してもし足りない。

 何故、彼はそこまでして私達を支え続けてくれているのだろう。
 気分が落ち込んでいるからか、気が付けばそんな事ばかり考えてしまう。

 彼が過去に美味しいと言ってくれたスープを作りながら、セドリックの事を思い浮かべる。
 人との関りを得意とせず、更には女性嫌いであるセドリックが、私をめとるだけでなく子供まで受け入れてくれるだなんて、不思議で仕方ない。彼にとって、私はそれ程特別な人間だったのだろうか。

 どこにでも居るような私が、彼にとっては特別。
 元気で愛嬌があるマーシャを幼馴染に持ちながら、私の手を取った。
 それは何故か、何故私は彼の特別になれたのか。答えの出ない疑問ばかりが頭に浮かび、頭痛がしてくる。

「――エルちゃん」

 背後から聞こえたライリーの声に、ふと我に返った。
 慌てて振り返り、彼女へ視線を送る。

「――鍋、沸騰してるよ」

「えっ……あぁ、ごめんなさい」

 彼女の指摘通り、ずっと眺めていた筈の鍋はぐつぐつと沸騰していた。慌てて鍋を底から掻き混ぜ、僅かに焦げてしまったスープに溜息を吐く。
 考え事をしながら料理をすると、ろくな事が無い。レイをあやす事が出来ないのだから、せめて料理だけはしっかりとしなければ。そう思っても、頭に浮かぶのは彼の事ばかり。

「使用人の1人でも、雇ったらどうだい。見た感じ生活に不自由は無いようだし、チャーウーマン位なら雇えるだろう」

「――……」

 ライリーの言葉に、鍋を見つめたまま黙って首を振る。
 確かに、彼女の言う通り今のままでは私の身体がもたない。それに、ライリーにも迷惑が掛かってしまう。普通に考えれば、使用人を雇う方が賢明だろう。
 しかし、それはこの家に“他人”の出入りを許す事になってしまう。セドリックは人との関りを好まないだけでなく、信用していない人物を家に上げる事を特別嫌がった。
 ライリーやマーシャは彼にとって、家に上げても問題無いと判断する位に信頼を置いている人物だった様で快く許してくれたが、使用人となれば話は別だろう。
 それに、使用人を雇うとなれば、必然的に屋敷に居た頃を思い出してしまう。
 もう此処には、使用人を差別する父も母も居ない。使用人が暴言を吐かれる事も、暴力を振るわれる事も無い。だがそれでも、私が心を保てそうになかった。
 
「――じゃあ、セドリックが休みを取る事は?」

「彼にこれ以上迷惑を掛けたくないの」

「迷惑って……2人の子供だろう! セドリックはエルちゃんの夫であり、この子達の父親だよ! だからもう少し頼ったって……」

 ライリーが声を張り上げた事で、彼女の腕に抱かれていたレイが愚図る様な声を上げた。その声に気付き、ライリーが続きの言葉を飲み込む。
 中途半端に途切れてしまった会話。それを終わらせてしまおうと、振り返り彼女に視線を投げた。

「――心配かけてしまって、ごめんなさい。でも、大丈夫よ」

 私の言葉に、何か反論をしようとしたのだろう。彼女が何やら複雑な表情を浮かべ口を開く。
 しかし、彼女は何も言う事無く口を噤んだ。
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