DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XLIX 食事-II



 彼の言う通り、私を相手にするとレイはそれ程激しく暴れる事は無い。しかし、彼からのご飯しか食べない、というのはあながち間違いではなかった。
 暴れはしないものの、セドリックが居ない事に腹を立てて泣いて愚図り、器に盛ったご飯を半分も食べてくれない事が殆どだ。
 赤子の頃の様に1日を泣いて過ごす、という事は無くなり、食事時以外はルイと仲睦まじく遊んでいるが、それでもレイはセドリックに良く懐いていて今も変わらずべったりだった。

 そんな彼女が何故毎度セドリック相手にご飯を投げつけ愚図っているのかというと、それはご飯の時間が終われば彼が直ぐに仕事に戻ってしまうからだった。
 だからきっと、わざと我儘を言って彼を引き止めようとしているのだろう。そんな天邪鬼な一面を持つレイが愛らしく、私からすればとても微笑ましかった。

 レイとのご飯は相変わらず進まず、彼は未だ昼食に手が付けられていない。このままでは、仕事の時間に間に合わなくなってしまいそうだ。
 暫し考えた末、テーブルの隅に置かれた彼の昼食をそっと手元に寄せる。そしてスープをスプーンで掬い取り、徐に彼の口元に差し出した。

「――何のつもりだ」

 差し出したスプーンを見遣り、彼があからさまに表情を歪める。
 
「レイが貴方からのご飯しか食べない様に、貴方も私からのご飯しか食べないのかしら、と思って」

 揶揄う様にそう告げると、彼がじとりと此方を睨み「馬鹿にしてんのか」と短く答えた。
 そんな私達のやり取りを見ていたレイの顔が、みるみるうちに歪んでいく。

 レイはまだ愛の伝え方が分からず、こんな風に泣いて怒って気を引く方法しか知らないのだ。
 きっともう少し大きくなれば、素直に甘える方法も身に着けるだろう。しかし、子供なりにセドリックを引き止めようとしている姿はとても可愛らしく、愛おしい。

「ほら、レイが泣きそう。早く食べて」

 スプーンを揺らして、彼に早く食べる様に催促する。
 こうしている間にも、機嫌を悪くしたレイが愚図る声を上げ始めていた。

「あぁ、もう!」

 苛立ちを露わにした彼が、差し出したスプーンに噛みついた。そしてスプーンを咥えたまま、再びレイに向き直る。
 眉間に皺を寄せ、きつくセドリックを睨むレイの顔はセドリックそっくりだ。やはり、親子なのだと実感する。
 機嫌が悪い我が子に手を焼く彼はあまりに哀れで、しかし堪らなくおかしくて、止まらない笑いに肩を震わせた。

「笑ってんじゃねぇよ」

「ごめんなさい、つい」

 2人を眺めていると、隣に座っていたルイが徐に私のブラウスを引っ張った。
 ルイは口数が少なく、大人しい性格をしている為時々彼女の存在を忘れてしまう事があった。存在を忘れていても、彼女は怒る事も泣く事もしないから猶更だ。罪悪感を抱きながらも、ルイに視線を向ける。
 するとルイは、「さっさとしろ」と言わんばかりの顔で口を開けた。
 そこで、彼女のご飯がまだ途中だった事に気付く。

「ごめんね、ルイ」

 彼女の頭を撫でながら、スープを掬ったスプーンを彼女に差し出した。
 スープを口に含み、もぐもぐと動く頬はやはり小動物を彷彿とさせる。吸い寄せられる様にその頬を指先で突くと、ルイがセドリックによく似た顔で眉間に皺を寄せた。


 
「――とりあえず、全部食わせたから仕事に戻る。後は任せた」

 セドリックのシャツを掴んで離さないレイを抱き上げ、彼女の手をやんわりと掴む。
 コートを着込み、名残惜しそうにする彼と軽いキスを交わして、家を出ていく彼にレイと共に手を振った。道の途中、何度も振り返る彼を見て頬を緩ませる。

 此処には、子供達を見ていてくれたり、家事を代わってくれる使用人は居ない。それ故に、2人の子供を同時に見ながら家事を熟さなくてはならない為苦労を感じてしまう事もある。
 しかし、これも全て苦労ありきの幸せだろう。今は、そんな日々が何よりも愛おしかった。

 丁度セドリックの背が見えなくなり、外の寒さに身震いをした頃合い。背後から、ぱたりと木の器が落ちる音が聞こえた。ルイが落としてしまったのだろうか。
 まだ少し機嫌の悪いレイを抱き直し、慌てて玄関扉を閉めテーブルの方へを足を向けた。


 
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