DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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L 過去-I





 少し開いた窓から、ひんやりとした風が流れ込む。その風にカーテンが弧を描き、ナイトテーブルに置いた燭台の灯りが揺れた。

 元々物置だった2階。所々に蜘蛛の巣が張り、どこもかしこも埃まみれだった部屋は、セドリックとマーシャの手により改造され今やとても居心地の良い子供部屋となった。
 窓にはレース生地の白いカーテンを掛け、薄紅の壁紙を貼った内装は、幼く可憐な娘達にとてもよく似合う。
 
 ――21時を少し過ぎた頃合い。
 子供の身長に合わせて作られたダブルベッドに、寄り添うように眠る娘2人。そんな2人の頭を時々撫でながら、囁く様に子守歌を歌う。

「――Cute cute my baby 《可愛い可愛い私の赤ちゃん》」

 この歌は、昔良くメアリーが歌っていたものだ。お茶会の準備をしながら穏やかな表情で口ずさむ彼女は、目を奪われる程美しかったのを覚えている。

「――I can meet again someday, I wish for that day 《いつかまた逢える、その日を願ってる》」

 一度、何故その歌をいつも歌っているのかと尋ねた事があった。歌うのが好きだから、や、その歌を特別気に入っているから、と言われればそれまでだが、彼女がその歌を歌う時は決まって父から叱責されたり等何か嫌な事があった時だった。
 それを尋ねられた彼女は「お仕事中に申し訳ありません」なんて謝りながらも、何処か嬉しそうに、だが何処か儚げに、幼少期実母が歌ってくれた物だと聞かせてくれた。 

「――I believe in that day 《その日を信じてる》」

 メアリーにとっての、思い出の歌。聞いているうちに覚えてしまったその歌を、いつの間にか私は我が子にも歌って聞かせていた。
 彼女にとって大切な歌を、私が勝手に娘に聞かせているなんて知ったら、メアリーは一体なんと言うだろうか。
 酷く憤るか、悲しむか。

 何方どちらも、違うだろう。
 彼女の事だ、きっと笑顔で許してくれるに違いない。

「――So don't cry 《だから泣かないで》」

 そう思い、笑みを零しながら最後のフレーズを口にした。

 メアリーの事は、“あの夢”を見て以降忘れようとしていた。何故彼女を夢に見たのか、何故夢の中の彼女はあんな事を言ったのか、それは幾ら考えても分からなかった。
 なら、もう彼女の事は忘れてしまおう。
 メアリーは私の良き友人であり、今でも屋敷に置いてきてしまった事を後悔してしまう程大切であったが、それでも私にとってはこの生活には代えられなかった。
 思い出して苦しい思いをするくらいなら、悩むくらいならば、忘れてしまった方が良い。もう二度と、彼女と会う事は無いのだから。

 娘達の寝顔を眺めながら、ふと溜息を吐く。
 しかし、忘れようと思いながらもこの歌を歌ってしまうのも、歌う度にメアリーの事を思い出してしまうのも事実だった。
 まるで彼女を想い、苦しみ続ける事が裏切りへの贖罪だとでも言う様に、私の心の中から彼女は消えない。どれだけ忘れようとしても、忘れられない。
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