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LI 雷鳴の轟く夜-I
轟々と吹き荒れる狂風。窓を叩く豪雨。
これは夢か、それとも現実か。ふわふわと意識が浮遊する、心地良いとも不快だとも言えない感覚と共に、瞳を開く。
未だ意識がはっきりしない中、視界に入ったのは普段通りのリビング。それと、暴風雨の所為で揺れるカーテン。
今の時期――9月中旬には珍しくない小夜嵐だ。
やけに、懐かしい夢を見ていた。此処に来てまだ日が浅かった頃経験した、嵐の晩の夢。
何故突然あの晩を夢に見たのかと疑問を抱いたが、吹き荒れる暴風雨に納得がいった。全てはそれ等が見せたものだったのだ。
お気に入りのブランケットを胸に抱き、先程見た夢をぼんやりと思い返す。
――あれは確か、6月の冒頭の事だったと記憶している。
丁度、日が暮れた頃合いだった。6月にしては珍しい嵐に、私は不安を抱きながらセドリックの帰りを待っていた。
その時、1人考えていたのは幼少期の事。父にチェストに閉じ込められてしまった、あの晩の事だ。それは私にトラウマを植え付けるには十分すぎる物であり、克服をした今でもあの時の事を思い出せば少々息苦しさを感じる程であった。
確か、それがきっかけだった筈だ。
部屋の灯りが思わぬ事故で落ちてしまい、パニック状態となった私は「1人にしないで」なんて言って彼に縋りついた。――いや、押し倒した、の方が正しいだろうか。
あの時、私は何を思っていたのだったか。ただ覚えているのは、まるで童話の王子様の様に整った顔と、深く絡み合った視線。そして、張り裂けそうな程の鼓動の高鳴り。
明確に、彼が欲しいと思った瞬間だった。彼に愛されたい感情を必死に抑え込み、今の関係を壊さないように努めていた私が、罪を背負ってでも良いと思う程に彼を渇望した。
そしてその時、彼は私の気持ちに応えてくれる様に「傍に居る」と言ってくれた。
今なら、彼はその時には既に私を愛してくれていたのだと分かる。しかし当時はその言葉に翻弄され、期待をしても良いのか、彼を望んでも良いのかと、心を、頭を悩ませた。
それからの記憶は朧げであるが、唇を合わせようとどちらからともなく顔を近づけた。伝わる彼の体温に、吐息が触れ合う程の距離。
瞳を閉じれば、あの時の感覚が蘇る。
だが、結局落雷に邪魔をされ彼と口付けを交わす事は出来なかった。
あの時彼と口付けを交わしていたとしたら、今頃違った未来を見ていたのだろうか。
もっと早く結ばれる事が出来ていたかもしれないし、歪んだ関係を築いていた可能性だってある。
全ては、神のみぞ知る、だ。しかしそれでも、今より幸せな未来は無かっただろう。彼と結ばれるまでのあの間だって、きっと大事な意味があった筈だ。
今はこの道を選べてよかったと、心からそう思っていた。
嵐は気持ちを不安定にさせる。この騒音が原因だろうか。因果関係は分からないが、酷い孤独感を煽るものだ。
昔の夢を見てしまった事も相まって、索漠とした気持ちに苛まれる。彼はきっと、今も眠っているだろう。彼は眠りが深く、この程度の嵐では目を覚まさない筈だ。
彼に触れれば、少しは満たされるだろうか。そんな事を思い、ごろりと寝返りを打った。
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