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LI 雷鳴の轟く夜-II
しおりを挟む「――……」
彼が居た筈のベッドは空。手探りで探しても、何処にも彼の姿はない。
自身の隣から彼が居なくなってしまった事に、全く気が付かなかった。索漠としているからか、それともこの嵐の中だからか。孤独感が頂点に達し、慌てて起き上がった。
ブランケットを抱くだけでは物足りず、少しでも安心感を求めて頭から被り辺りを見渡す。
遠目に見える、リビングのテーブル。眠る前には確かにテーブルの上に置かれていた燭台が、今は何処にも見当たらない。
その燭台は、大抵2階の子供部屋へ行く時に使用する。それが無くなっているという事は、セドリックは今子供達の部屋に居るという事だ。
この嵐の中、娘2人は嘸かし不安だっただろう。レイは特に雷嫌いで、少しでも空が光ろうものなら直ぐに泣きだしてしまう。
きっとそんな2人を案じて、彼は2階まで様子を見に行ったのだ。
今頃、レイは雷や暴風雨を怖がり泣いているかもしれない。私も様子を見に行くべきだろうか。はっきりとしない頭で、ぼんやりと考える。
そんな時、階段の方から僅かな物音がした。
天候の所為で掻き消されてしまいそうではあるが、その物音は確かに誰かが階段を降りてくる音だ。階段の方へと視線を向けると、オレンジ色の光がゆらゆらと揺れていた。
「――セドリック?」
階段を降り、リビングへ戻ってきたのは私が探していた人物。想像していた通り、彼は2階の子供部屋へ行っていた様だ。
私の声に気付いた彼が、一言「起きてたのか」と呟く。
「2人とも、大丈夫だった?」
そう声を掛けると、セドリックがやや複雑な表情を浮かべた。その表情に、思わず首を傾げる。
「――ルイに、絵本を読んで欲しいとせがまれた」
「ルイに?レイじゃなくって?」
彼が、複雑な表情を浮かべたまま頷く。
ゆったりとした足取りで此方に歩み寄ってきた彼が、火の灯る燭台をナイトテーブルに置いた。そしてブランケット越しに私の頭を撫で、隣に腰掛ける。
ルイが、絵本を読んで欲しいとせがむだなんて珍しい。――いや、珍しいなんてものでは無いだろう。彼女がそれをせがむのは初めてでは無いだろうか。
ルイは小さな頃から本が好きで、気が付けば1人絵本を眺めている事が多い子供だった。まだ言葉もままならない小さな頃は、それに気付いた私やセドリックが読み聞かせたり等をしていたが、ある程度の年齢になってからというもの、それを極端に嫌がる様になった。
私もセドリックも文字の読み書きは充分に出来る上、読み聞かせも決して下手な部類では無い筈だ。しかし、彼女は「1人で読めるから」と言って読み聞かせるどころか、私達が絵本に触れる事すら厭悪した。
その理由は、未だ分からないまま。一度それを問うた事があったが、彼女は口を噤んでしまい暫く口を利いてくれなくなってしまった。
そんな彼女が、セドリックに絵本を読んで欲しいとせがむだなんて。そんな姿、まるで想像が出来ない。
やはり、起きた時点で私も2階に行けば良かったかもしれない。そんな彼女の姿を見てみたいと、興趣をそそられる。
しかし、すぐ隣からする彼の甘い香りに、娘への興趣さえも徐々に抜け落ちて行った。
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