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LIV 失ったもの-III
しおりを挟む約30分程で買い出しは終わり、空のバスケットは沢山の食材でいっぱいになった。
他の店で買い物をしていても、頭の中を回るのはキースの事ばかり。キースの話をしたのは果物屋の店主だけだったが、それでも皆彼の死を知っているのでは無いかと思えて落ち着かなかった。
今にも雨が降り出しそうな空を見上げながら、石畳の道を駆けていく。雨に降られてしまったら、着替えなどが非常に面倒だ。それに最近は天気が悪い事が多い為、なるべく余計な洗濯物を出したくない。雨が降り出す前に、自宅に戻れればベストだ。
レイは今頃、勉強が嫌だと騒いでいるのだろう。ルイはもう、今日の分の勉強を終わらせ読書に勤しんでるかもしれない。早くキースの事を忘れてしまおうと、娘2人の事で思考を埋め尽くす。
今日は少し、多めに果物を買った。レイが勉強をちゃんと進めていたら、ご褒美に林檎を剥いて出してあげよう。ルイには生の林檎よりも、砂糖で煮たコンポートを出してあげた方が喜ぶかもしれない。
ルイはセドリックに似ている所が多い為、彼女も甘い物が苦手だとばかり思っていた。しかし味覚の好みはセドリックとは真逆であった。彼女は大の甘党であり、甘い物が好きなマーシャも驚く程だ。顔に笑みを浮かべ、コンポートの作り方を1から頭に並べる。
やっと、遠目に見えてきた我が家。雨が降り出す前に、無事戻ってこれて良かった。
早く、家に入って果物を我が子に出してあげよう。
――なのに。
石畳の道を駆ける足は止まり、持っていたバスケットは手から滑り落ちる。
落ちた衝撃で、買った食材がバスケットから飛び出し辺りに散らばった。娘に出そうと思った熟れた林檎は、コロコロと遠くの方へ転がっていく。
早く拾い集めなければ、食材が傷んでしまう。
しかし私の瞳は、遠くの我が家を見据えたまま。
ゆらゆらと、風に合わせて開閉を繰り返す玄関扉。灯りが消え、真っ暗になった家の中。
私の足が再び動いたのは、我が家に起こった異常に気付いてからだった。
脳内を回る、キースの死。行方知らずの養女。
それを掻き消す様に、様々な憶測を並べ立てる。きっと、レイがあまりに勉強が嫌で逃げ出してしまったのだ。それを、ルイが追いかけていってしまったのだろう。
2人が知っている場所といえば、買い出しによく行く街だけだ。私の後を追い掛け街に向かったのかもしれない。1度街に戻り、娘の姿を探した方が良いだろうか。
心臓が壊れてしまいそうな程の動悸と、乱れた呼吸。止まらない、地面を蹴る足、脳内に並べる沢山の憶測。
しかし、漸く辿り着いた我が家の玄関扉に張り付いた、黒い封筒の姿に一瞬で背筋が凍り付いた。
不吉な黒に、血液の様な赤い、“B”の文字が押された封蝋。
これはかつて私が受け取った、あの謎の手紙と同じ物だ。
ひったくる様にその手紙を扉から剥がし、封筒が破れるのもお構いなしに乱暴に開封する。
中に入っているのは、昔と同じ黒いメッセージカート1枚。息を吐き、そのカードを取り出した。
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