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LIV 失ったもの-V
しおりを挟む静まり返った部屋の中。明かりが灯っていない為薄暗い。
目を凝らして、部屋の隅々まで視線を走らせる。ベッドの下、棚の隙間。娘が居る筈の無い場所すらも、確認してしまう。
この部屋にあるのは、娘2人が居た“痕跡”だけ。僅かに感じる娘の香りや、娘がいた気配。それだけだ。
もう此処に、2人は居ない。
「――どうして……」
崩れ落ちる様に床に膝を付き、背を丸め娘のベッドに顔を埋める。
鼻腔を抜けるのは、娘を抱きしめた時に感じたものと同じ香り。こうしてベッドに突っ伏していると、娘を抱きしめている様な錯覚に陥り自然と涙が瞳に滲む。
ふと、ベッドの表面を撫でようと手を動かした時、かさりと何かが指先にあたった。顔を上げ、その“何か”に視線を向ける。
「――……?」
それは、寸前まで強く握り締められていたのか、きつい皺の付いた1枚の紙だった。形状を見るに、勉強用のノートを破った物だろう。何かが書かれているのが透けて見え、そっと紙を裏返す。
--
Dad, mom, goodbye. Don't forget us. 《パパ、ママ、さよなら。私達を忘れないでね。》
I love you, forever. 《いつまでも、愛しています。》
--
文章を書く事に慣れていない字。随分と乱れているが、これは紛れも無くルイの字だ。
普段から丁寧に文字を書くルイにしては珍しい程の殴り書きである。去り際、咄嗟に書いたのだろうか。
しかしその文面に思考は止まり、代わりに涙が止めど無く溢れる。
何故。どうして。
頭に浮かぶのはそんな事ばかり。
2人は今、何処に居るのか。2人の意思で、此処を出たのか。
ただの家出か、それとも誘拐か。ぐわりと回る眩暈と殴られる様な頭痛の中、ただ嗚咽を漏らしながら縋る様に布団を掴む。
ふと、遠くで聞こえる足音が耳に付いた。
娘達の足音だろうか。――いや、違う。
娘2人と、最愛の夫の足音を聞き間違う筈が無い。
セドリックは今仕事中の筈だ。何故、これ程タイミング良く帰ってきたのだろう。そんな事を考えているうちに足音は近づき、自身の背後で止まった。
「――エル」
背後で聞こえた、掠れた声。その声にゆっくりと顔を上げ、振り返った。
「――セドリック……2人が、居なくなっちゃったの……」
彼は、娘2人が居なくなった事に気付いている様だった。その悲愴感が滲んだ顔に、彼は何かを知っているのだと確信を持つ。
しかし、今はまともに思考が動く事は無かった。
「――ごめん、なさい……私が、ちゃんと2人を見ていなかったから……」
瞳から再び涙が零れ、頬を伝い落ちていく。
そんな私を見て、彼が一度切なげに表情を歪めた後私をきつく抱きしめた。
「――ごめんなさい、ごめんなさい」
ただ、譫言の様にその言葉を繰り返す。
まるで子供の様に泣きじゃくりながら、雨に濡れて重くなった彼のジャケットを掴んだ。
「――エル」
私の背をあやす様に撫でていた彼が、躊躇いがちに口を開く。
「話さないと、いけないことがある」
彼の、その言葉。きっと、娘2人の事だろう。2人の居場所を、彼は知っているのかもしれない。
しかし、何故だか今はとある感情が自身の心を覆い尽くしていた。
この状況の中、そんな事を想ってしまうだなんて。自分自身に、深く失望する。
――貴女は貴女を信じればいい。その選択を咎める者は居ない。
あの手紙――差出人は確か、メイベル・バルフォアと言っただろうか。
あれが本当に予言の類なのだとしたら、彼女は今現在私が抱いている感情も全て見透かしているのだろうか。
その言葉は、私の今の“思い”にも当て嵌まるものだと、果たして本当に彼女は言うのだろうか。
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