DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

文字の大きさ
202 / 215

LV 悪夢の様な話-IV

しおりを挟む




 縋りつく私の手を握る彼の手は、氷の様に冷たい。そして僅かに、震えている様な気がした。
 どうして? そう問いたくとも、彼の顔を見つめる事で精一杯で、喉奥から声を出す事が出来ない。

「――相手は貴族だ。それに、息子と養女を失って、気が触れている奴でもある。2人を無理に取り返そうとすればする程、きっと2人を危険に晒す事になる」

「そんな……じゃあ、2人はもう戻ってこないの……?」

「――そうは……言ってない……」

 彼がきつく、唇を噛み締める。私の問いに否定を示しているが、彼のその顔を見ていれば2人を取り戻す事が難しいと言う事は直ぐに分かった。

 ぐるぐると、自身の中を渦巻く感情。セドリックがこの家に帰ってきてから、ずっと私の中を回っていた物だ。
 それが、今もずっと回って消えない。

「――最低」

 思わず、漏らした言葉。それを口にした事が引き金になったのか、ボロボロと止めど無く涙が溢れ頬を伝い落ちていく。

 最低、最低。最低だ。
 こんなの、普通じゃない。絶対におかしい。親として、1人の人間として、間違っている。
 
 ――娘2人を失っても尚、セドリックが此処に居てくれる事に安堵してしまっているなんて。

「……ごめん、ごめんなさい、…ごめん、なさい」

 彼の腕に縋り、嗚咽を漏らしながら繰り返す。
 
「――あ、貴方のお仕事が、良くない仕事だって分かってる。親として、妻として、貴方を責める事が普通なのかもしれない。でも、私は……貴方を責める事が出来ない」

「――エル……」

 彼が掠れた声で、私の名を呼ぶ。だがその声を遮る様に、更に言葉を続けた。

「大切な娘が居なくなったというのに……私、私まだ、貴方と居られる事を……嬉しく思うの……。自分でも、親失格だって、最低だって、分かってる……、でも……」

 彼は私を闇から救ってくれた、ただ1人の光。
 狂った世界から引き上げてくれたのは、私に自由を与えてくれたのは、私に知らぬ感情を、愛を与えてくれたのは、他でも無いセドリックだ。
 彼は私にとって唯一の光であり、希望である。

「貴方が居ないと、駄目なの。生きて、いけない。だから」

 涙で掠れた、酷く聞き苦しい声。それでも、無理矢理言葉を紡ぐ。

「――貴方だけは、傍に居て、何処にも行かないで、お願いよ」

 彼が罪人でも構わない。あの時私は、確かにそう思った。そう思って、自分の意志で彼を選んだ。
 娘が誘拐されてしまったのは、彼だけの責任じゃない。その罪は、私も背負わなくてはならない。

 でもどうか。
 これから先の未来がどれだけの地獄であろうと、私から彼を奪わないで欲しい。
 もしいつかこの関係に終わりが来るのだとしても、1分、1秒でもその終わりを遠ざけたい。

 それが、最低な自分のただ1つの願いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ソウシソウアイ?

野草こたつ/ロクヨミノ
恋愛
政略結婚をすることになったオデット。 その相手は初恋の人であり、同時にオデットの姉アンネリースに想いを寄せる騎士団の上司、ランヴァルド・アーノルト伯爵。 拒否に拒否を重ねたが強制的に結婚が決まり、 諦めにも似た気持ちで嫁いだオデットだが……。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

結婚する事に決めたから

KONAN
恋愛
私は既婚者です。 新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。 まずは、離婚してから行動を起こします。 主な登場人物 東條なお 似ている芸能人 ○原隼人さん 32歳既婚。 中学、高校はテニス部 電気工事の資格と実務経験あり。 車、バイク、船の免許を持っている。 現在、新聞販売店所長代理。 趣味はイカ釣り。 竹田みさき 似ている芸能人 ○野芽衣さん 32歳未婚、シングルマザー 医療事務 息子1人 親分(大島) 似ている芸能人 ○田新太さん 70代 施設の送迎運転手 板金屋(大倉) 似ている芸能人 ○藤大樹さん 23歳 介護助手 理学療法士になる為、勉強中 よっしー課長(吉本) 似ている芸能人 ○倉涼子さん 施設医療事務課長 登山が趣味 o谷事務長 ○重豊さん 施設医療事務事務長 腰痛持ち 池さん 似ている芸能人 ○田あき子さん 居宅部門管理者 看護師 下山さん(ともさん) 似ている芸能人 ○地真央さん 医療事務 息子と娘はテニス選手 t助 似ている芸能人 ○ツオくん(アニメ) 施設医療事務事務長 o谷事務長異動後の事務長 雄一郎 ゆういちろう 似ている芸能人 ○鹿央士さん 弟の同級生 中学テニス部 高校陸上部 大学帰宅部 髪の赤い看護師(川木えみ) 似ている芸能人 ○田來未さん 准看護師 ヤンキー 怖い

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

処理中です...