DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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LVII 分岐点-I





 微雨びうの降る昼過ぎ。
 時計の秒針が響く部屋で、長らく使っていなかった客人用のティーカップに甘い香りの立つ紅茶を注ぐ。

「悪いね、突然押し掛けて」
 
 テーブルに着き、紅茶の支度をする私を見つめる彼女――ライリーが、ぽつりと呟く様に静かに告げた。今日は私とセドリックに用事があり、家を訪ねてきたらしい。
 しかし、生憎セドリックは不在だ。丁度彼女が来る10分程前に、街の方へと出かけて行った。
 私も共に行くと訴えたのだが、彼は「直ぐに戻ってくるから」と一言残し行ってしまった。行き先は聞いていない。
 このまま、セドリックまでもが居なくなってしまうのでは無いか。私を苛むのはそんな不安。1人になると、潰れてしまいそうな程の不安に襲われじっとしていられなくなってしまう。
 しんと静まり返った部屋に息苦しさを感じ、眩暈を覚え始めた頃、ライリーがこの家を訪ねてきた。
 
「――いいの。セドリックが居なくて、心細かったから……。来てくれて嬉しいわ」

 あのまま1人きりで居たら、余計な事ばかり考えて不安に耐えられなくなっていただろう。セドリックを探しに、1人彷徨う様に街へ出て行ってしまっていたかもしれない。
 そう考えると、どんな理由があれ彼女が来てくれた事には安堵していた。

「そうかい。じゃああまり急ぐ必要は無さそうだね」

「ええ、ゆっくりしていって」

 紅茶を注いだティーカップを彼女の前に出し、向かい合う様に自身も椅子に腰掛ける。
 用意した紅茶は、彼女の分のみ。香りが良く、私が特別気に入っていた茶葉だが、今は紅茶を口にする気分では無かった。
 湯気の立つ紅茶を見つめながら、彼女が話し始めるのを黙って待つ。

 深夜2時頃、こっそりと教会に行っていた為十分な睡眠がとれていない。その為、少しでも気を抜けば倒れてしまいそうだった。
 今もこうして、彼女と向かい合う様にテーブルに着いているだけで、ふわふわと揺れる様な眩暈に襲われている。まるで船酔いでもしているかの様な不調だ。酷く気分が悪い。


「――ルイちゃんとレイちゃんが居なくなって、もう1週間が経つだろう」

 彼女が言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。
 
「勿論私は、2人はいつか帰ってくるって信じてるよ。だけど、エルちゃんもセドリックも、この家に居るのがつらいんじゃないかと思ってね」

 揺らしたティーカップの水面を見つめながら、彼女が何処か言いづらそうに告げる。
 事実、この家には娘達との思い出が多く詰まっている。簡単に手放す事が出来ないのと同時に、このまま此処に住み続ける事に苦痛を感じていた。

「――前に、セシリアの話をしたのを覚えてるかい?」

「確か、隣町の教会の……」

「あぁそうだ。孤児院と並立してる、という話はしたと思うんだが、どうやら孤児院の方で人手が足りてない様なんだ」

「孤児、院……」

 親の居ない、子供達。孤児院は、そんな子達を保護した場所。
 子供達は、一体どんな苦労の中で生きてきたのだろうか。そんな事を考えると、胸が抉られる様に痛んだ。
 娘2人は貴族の屋敷に居る事が分かっているが、もしそんな孤児達と同じ様な苦しい生活を送っていたとしたら。私が元居た屋敷での暮らしと同じ様な生活を強いられていたとしたら。そう考えると頭がどうにかなってしまいそうだった。

「それで、提案なんだが……。今のエルちゃんにこんな事を頼むのは酷だとは分かっているが、エルちゃん、その孤児院でシスターとしてセシリアの手伝いをしてやってくれないかな。給料は出ないが、住む場所も、食事も出る。充分に生活は出来る筈だ。勿論、セドリックも一緒に」

「――……」

 突然の話に、言葉が出ない。
 確かに、ずっとこのままという訳には行かない。しかし、娘を失った私が孤児の世話をするだなんて、あまりに非現実的な話ではないだろうか。
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