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LVII 分岐点-IV
彼の手元を覗き込み私も共に手紙に目を通したが、書かれていた事は決して特別な事では無かった。
先程ライリーから聞いた事と同じだ。保護した孤児が多く、管理者の人数が足りていないらしい。
彼が視線に迷いを滲ませ、私を見つめる。
「――私は、行っても良いと思っているの」
彼のジャケットを胸に抱き、彼に身を寄せぽつりと呟いた。
「ずっとこのままという訳にも、いかないから……」
事前に考えていた事なのに、いざ口にすると猛烈な不安に襲われる。
本当に此処から離れても良いのだろうか。娘達が他でもない“此処に”帰ってくる事は、無いのだろうか。娘達の帰る場所を奪う事にならないだろうか。
しかし、まるでそれ等の不安を軽くするように彼が優しい声音で私の言葉を肯定した。
「――そうだな」
彼が私の背をぽんと叩き、そっと手紙を封筒の中に戻す。
「返事は俺が出しておくよ」
そういって、今度はくしゃりと私の髪を撫でた。
昔の彼を連想させる撫で方。私は昔から、こうして髪を乱される様に撫でられるのが好きだった。
胸の奥がむずむずとする様な感覚に、彼のジャケットを強く抱きしめる。
すると、ジャケットの中からかさりと小さな音がした。
ジャケットを抱え直し、音のした狭い胸ポケットに指を差し込む。そのまま中を探ると、硬い紙のような物が指先に当たった。
“それ”を指先で摘まみ、ポケットから引き出す。
「……なぁに、これ」
出てきたのは、4つ折りの小さな紙。一見ただの紙切れの様だが、紙切れにしてはやけに丁寧に折りたたまれている。
「――あ」
その紙を見るなり声を上げたセドリックが、私の手を強く掴んだ。そして私の指の間から紙を抜き取り、そっとその紙を開く。
「……?」
何やら険しい顔をして紙を見つめる彼に疑問が沸き上がり、私もその紙を覗き込もうと背伸びをした。しかし、何か文字が書かれている事は分かったが身長差の所為で何が書かれているか迄は見えない。
仕方なく諦め、紙を見つめる彼に視線を送った。
「――アイリーン・スチュアート……」
彼がぽつりと、呟いた名前。
その名前に、古い記憶が呼び起こされる。
「それって……!メアリーの!」
思わず声を上げ、彼の手を乱暴に掴み紙を覗き込んだ。
“The name of the woman who keeps regretting is Aileen Stuart 《後悔し続ける女性の名は、アイリーン・スチュアート》
She is the only hope 《彼女こそが一筋の希望》”
見覚えのある字、言い回し、そして書かれた名前。
もしや彼も、あの女性から予言を受けていたのだろうか。しかし、私が受けた予言と形態が大きく異なる。
私は黒い封筒に黒いメッセージカードで予言を受けた。だが彼は、小さな紙に文字を詰め込んで書いただけの物だ。差出人はあの女性では無く、別人だろうか。
しかし今は、それよりも書かれている名前――アイリーン・スチュアートの方が重要だ。
メアリーとお茶会をした時、彼女からその名前を聞いた筈だ。
確か、彼女は――
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