DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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LVIII エピローグ-III



 どうして、彼が此処に居るのか。私を見つめるその瞳は、まるで私達が今日此処に来ることを知っていたかのようだ。
 問いたい事は山程ある。しかし、何から問えばいいのかが分からない。

「――モーリス、どうして……」

 辛うじて絞り出した言葉は、やけに震えていた。
 
「お久しぶりです、エルお嬢様」

 その言葉は、いつかメアリーと再会した時に彼女が告げた言葉と同じ。
 彼が何か言葉を続けようと口を開くが、何やら考え込む表情を浮かべ口を閉ざした。そして優しい笑顔を浮かべ、再び口を開く。

「もう、エルお嬢様とお呼びするのは失礼ですね。ミセス・エル・アンドール」

 彼の声が優しく耳に届く。
 鼻腔を擽る薔薇の香りも、優しい声も、当時のままだ。ただ変わった事と言えば、皺が少し増えた位だろう。
 涙が浮かび、視界が滲む。

「――貴方と、また、会えるなんて……思っていなかった……」

「言ったでしょう、あの晩。エル・バートンと名乗れば“貴女様を見つけやすくなる”と」

 涙が頬を伝い落ちる中、彼がゆっくりと杖を突き私と距離を詰めた。

「そんな顔をしないでください。私は貴女様と再会出来て嬉しく思っているのですよ」

 彼がちらりと、私の背後のセドリックに目を遣る。

「素敵な殿方を見つけ、幸せになられたようで。安心しました」

「――え、えぇ……そうなの……。結婚して……子供、も……」

 思わず零してしまった“子供”の存在。
 モーリスは、娘2人が誘拐されてしまった事を知らない。それに、出来る事なら彼に子供を失った事は言いたくなかった。

「私、私が、居なくなった後の屋敷は? どう、なったの」
 
 誤魔化す様に口にしたのは、あの日メアリーにしたものと同じ問い。
 彼女は、私の問いに答える事は無かった。きっと、目の前の彼もそうだ。私の問いに答えない。

「その問いに答えるには、些か難しいものがありますね。時が来たら、全てをお話しましょう」

「――そんな……」

 彼が、優しく笑う。
 そしてそっと私に手を伸ばし、頬を伝う涙を拭った。

「大丈夫。此処にはシスターセシリアや、優しい子供達が居ます。きっと直ぐに、孤児院にも慣れるでしょう。自分を信じていれば良いのです。貴女様を咎める人は此処には居ませんよ」

 彼が告げたのは、あの“黒い手紙”に書かれていた事と同じ事だ。
 私を見つめる優しい瞳とその声に、まさかあの手紙の差出人は彼だったのではないかなんて非現実的な事が浮かんでしまう。

 そして、彼の瞳を見ていてとある事に気付いた。
 その問いに、彼は答えてはくれない。きっと答えを誤魔化して笑うのだろう。
 しかしそれでも、その問いを口にしない選択肢は自分の中に無かった。

「――じゃあ、貴方のお話を、聞かせて貰える?」

 これは、ただの私意かもしれない。
 それでも私の思考に間違いは無い様な気がしていた。

 呆れた様でいて、何処か嬉しそうな彼の表情。
 そして優しく細められた、宝石の様に美しいイエローブラウンの瞳。

「きっと私は知らない事が多くあるのでしょう?」

 彼は私を、目を逸らす事無くしっかりと見据える。




「――ねぇ、お父様」






to be continued....




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