DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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XI 嵐の夜-I

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 ――ロンドンは広い。
 あのロンドンの象徴とも呼べる時計塔クロックタワーや、英国最大の高級百貨店。城の様な塔が目印である跳開橋に、中心部を流れる大きな川の河畔に存在する宮殿など、英国の都市であるロンドンは美しい建築物が多い。
 しかし、勿論それだけでは無い。人口が多いが故に治安が悪く、安易に立ち入れない貧民街や、迷路の様に入り組んだ街も存在する。男だろうが女だろうが、知らない地域へ不要に立ち入るべきではない。

 そんなロンドンの、中心部から離れた小さな街。自分達が住んでいる場所の、2つ程隣といった所だろうか。徒歩では少々厳しい距離ではあるが、仕事と割り切れば歩ける距離だ。

 依頼者への書類が入った封筒を片手に、深く息を吐く。
 この先は、ここらで最も治安が悪いとされる場所。いや、“治安が悪い”なんてそんな生易しいものでは無い。見渡せばゴミの山、ドラッグ、そこらを走り回る害獣に、生きているのか死んでいるのか分からない孤児。
 目を塞ぎたくなるものばかりだ。奥へ進めば進む程悪くなる空気に、革の手袋を嵌めた手で口元を覆う。
 幼少期から様々な街を転々としてきた自分にとっては、治安の悪い街への恐怖心は然程ない。しかし、だからと言って居心地の良い場所という訳でも当然無かった。
 早く用事を済ませてしまおうと、歩く速度を上げる。

 ――今回子供の購買を希望した依頼者は、下層階級の人間だった。
 子供を売るのも買うのも身分は関係ない。だが、子供1人は当然階級の低い人間に支払える額では無い。それに、下層階級の依頼者は大抵、子供を買う事に不純な動機を持っている為、取引が成立した事例は過去に無かった。
 そして今回も同様。依頼者は、加虐性愛サディズム小児性愛ペドフィリアなどの特殊性癖を持つ男だった。それは決して珍しいものでは無いが、幾ら子供の売買が闇取引であろうと最初から子供の危険が目に見えている取引は行わないのが掟だ。
 しかし、面談をするだけでは依頼拒否は出来ない。依頼者の十分な身辺調査をして、後日可否の結果を書類にして届ける必要があった。

 中には結果が気に入らず、ブローカーへの暴行や脅迫紛いな事をする依頼者も居る。その為にブローカーは護身術を身に着けている事が殆どだが、それはあくまで知識が頭に入っていると言うだけの話。咄嗟に動ける自身はあまり無い。
 それに、自身だけでなく家族に被害が行く可能性も大いに考えられる。そうなれば、もう護身術だけではどうにもならない。
 その様な面を考えると、完全な独り身で無くなった今、この危険が多い仕事を続ける事に迷いを感じていた。
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