DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

文字の大きさ
75 / 162

XVIII 雨の中で-III

しおりを挟む

「アリスと、とても相性が良かったみたいね。素敵な演奏だった」

 彼女が空家の壁に凭れ掛かり、俺と視線を合わせ儚げに微笑む。

「……嫉妬、しちゃうな」

 降り頻る雨に、掻き消されてしまいそうな小さな声。自身を見つめる彼女の瞳が揺れる。
 その言葉に、漸く彼女が何を思っていたのかに気付く事が出来た。垂れ下がった細い糸を手繰り寄せる様に、過去の記憶を呼び起こす。

 自身が異性と関わる事が少ないからか、彼女が目に見えた嫉妬をした事は無かった。しかし、昔マーシャとの距離が近いと嘆いていた事が何度かあった。
 マーシャは家族の様な存在だと伝えても、彼女は納得する事無くその都度頬を膨らませていた記憶がある。

 女の嫉妬は面倒だ、なんて言われる事が多く、自身も当然そういう物だと思っていた。だが、最愛の彼女からされる嫉妬は悪い気がしない。寧ろそんな彼女が愛おしく、可愛らしく感じる。
 口元が緩むのを隠し、彼女の頭にぽんと手を置いた。

「……何よ」

「別に」

「……手、放して」

「嫌なら振り払えばいいだろ」

 湿気の所為か、普段より広がった彼女の髪を優しく撫でる。

「アリスが貴方を気に入っている事は、客席から見ていても分かった」

「そうか。そういえば、コンサートが終わった後に何か言っていた様な気がする」

「……なにそれ」

「早くお前に会いたかったから、真剣に聞いてなかった」

 彼女の腕を再び掴み、強く引き上げその場に立ち上がらせる。
 今日の彼女は珍しくヒールの高い靴を履いていて、普段よりも目線の位置が高かった。と、言っても、自身よりも小さい事には変わり無いのだが。

 靴の所為か、先程から彼女が妙にふらついている。
 支える様に彼女の腰に手を回すと、彼女の頬がほんのりと赤くなった。

「足、大丈夫か」

「……靴擦れが痛くて……。もう少し、低いヒールの靴を選べば良かった」

「家までそんなに距離は無いが……、その足だと厳しそうだな」

「……裸足で歩けば、平気」

 他愛の無い話をしながら、彼女と顔の距離を縮める。

「……アリスに魅力感じた?」

「全く」

「……嘘。私、アリスに勝てる自信なんて無いわ」

「俺は、アリスがお前に勝てると思えないが」

 宝石の様に美しい、彼女のイエローブラウンの瞳を真っ直ぐに見つめた。長い睫毛に、潤む瞳。その愛らしさは、アリスと比にならない。
 そっと額を合わせると、彼女がぎこちなくも瞳を閉じた。

 指で優しく彼女の顎を掬い取り、薄く紅を乗せた唇にゆっくりと自らの唇を触れさせる。
 6日ぶりに交わす口付けに彼女への愛おしさが溢れ、柔らかなその唇を愛でる様に食むと、彼女が小さく笑みを漏らした。

「……愛してるわ、セドリック」

「知ってる」

「……本当、貴方って意地悪ね。愛してるなんて嘘。やっぱり、大嫌い」

 彼女が弱々しく、俺の胸を叩いた。
 
「あぁ、そうかよ」

 その手を掴んで封じ込み、彼女の口を塞ぐ様にもう一度唇を重ねる。
 今迄彼女と交わした口付けの中で最も強く、甘いそれは、彼女の機嫌を直すのには充分だった様だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

処理中です...