DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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XXXIX Miss.××××-II

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 その彼女の姿に、ふと手に持った茶菓子の存在を思い出した。甘いドライフルーツを好むのなら、この茶菓子も喜んで受け取るのではないか。
 自身より家族に贈れ等と小言を言われそうだが、彼女はあまり人の心情を詮索する様なタイプでは無い。適当な言葉で誤魔化せば納得してくれるだろう。

「――ライリー」

 振り向いた彼女に向けて、茶の紙袋に入れられた菓子を抛り投げる。反射的に手を伸ばし、片手でそれを受け取った彼女が怪訝な瞳を此方に向けた。

「なんだいこれ」

「仕事で貰った菓子。要らねぇからやるよ」

「……菓子?」

 紙袋に視線を落としたライリーが、あからさまに表情を曇らせた。
 やはり、予想通り彼女相手だと円滑には進まない様だ。彼女が口を開く前に、誤魔化せる言葉を幾つか脳内に並べる。

 しかし、何時まで経っても彼女は黙ったまま。
 何かを考えこむ様な表情を浮べ、何も言おうとはしない。

 思った事を直ぐ口にする彼女が、こんな反応を示したのは初めてだ。
 募る不安に耐え兼ね、再度彼女の名を口にした。

「――あんた、白髪の女に覚えはあるかい?」

 彼女の口から発せられたのは、投げ渡した菓子とは似ても似つかない言葉。

「白髪の、若い女……」

 その言葉を復唱する様に繰り返し、記憶を巡らせる。
 人生において、最も思い出す回数が多く、最も思い出せないものは人の顔と名前だ。過去に何度も、こうして特定の人物を思い出さなければならない場面に直面してきた。しかし、この様な場面では十中八九その人物を思い出す事は出来ない。
 それも当然だ。出会いと別れが多い人生で、出逢った人間全てを記憶するのは不可能だろう。自身の記憶に色濃く残っている人物なら兎も角、他人が言い表した人物と自身の記憶が一致する事は殆ど無い。

 案の定というべきか、ライリーの言った“白髪の女”は思い出す事は出来なかった。
 黙って首を横に振り、記憶ない事を示す。

「――あんたが此処に来る、30分位前かね。此処らでは見た事の無い、顔の綺麗な女が尋ねて来たんだ。この後此処に来る男性に、この手紙を渡して欲しいって」

 ライリーが徐にポケットから取り出したのは、郵便封筒にしては少し大きい真っ黒の封筒。
 人への報告で使われる事の多い手紙に、態々黒を選ぶ人物がいるだろうか。訃報ですら、黒の封筒は使われない。
 不吉であり、不愉快でもあるその手紙を彼女から受け取り、両面をまじまじと見つめる。

 血液の様な、赤薔薇の様な、黒い封筒に良く映える赤の封蝋に“B”の印璽いんじ
 その印璽には、当然覚えは無い。

「目印は、茶の紙袋に入ったお茶菓子。私が良く知った人物だって」

 付け足す様に言ったライリーの顔を一瞥し、その封蝋を剥がす。

 今日依頼者に会う事は、同僚であり幼馴染のマーシャしか知らない。
 彼女の悪戯にしては随分手が込んでいるが、幾らマーシャでも俺が依頼者から茶菓子を受け取るなんて事は分からないだろう。それに、こんな悪戯をする理由が無い。

 開いた封筒から覗くのは、同じ黒色のメッセージカード。
 一度深く息を吐いて、そのカードを封筒から抜き取った。

--


Dear Mr Cedric Andor,(親愛なる ミスター・セドリック・アンドール)

Be careful at 3pm today.(午後3時にご注意を)

Broken doll attacks you.(壊れた人形が貴方を狙ってる)

Mabel Balfour(メイベル・バルフォア)

---

「……なんだこれ」

 一体どんな脅迫文が書かれているのかと身構えたが、そのメッセージは想像の斜め上を行く文章だった。
 ゴールドのインクで書かれた文字は、まるで手本の様に綺麗で癖が無い。こんな字を書く人物はそう居ないだろう。
 カードの最後に書かれた差出人らしき名前も、覚えの無い名前だ。
 ライリーと共に、首を傾げる。
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