DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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XXXIX Miss.××××-III

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「送り先、本当に俺で合ってんのか?」

「間違いないとは言い切れないが、特徴が一致してんだ。あんた以外居ないだろう」

「……まぁ……そうだが……」

 彼女の的確な指摘に言い淀む。
 ポケットから取り出した懐中時計が指すのは2時55分。指定された時間まで残り5分しかない。
 此処から自宅、もしくは職場までは、遠くも近くもない微妙な距離だ。しかし確実に、何方も5分以内では辿り着けない。

「……参ったな」

 舌打ち交じりに溜息を吐き、カードと封筒をくしゃりと握る。

「……あんた、それ信じるのかい?」

「別に、そういう訳じゃねぇよ」

 今も昔も、占いや予言などは全く信じていない。だが、それらの存在を全て否定すれば、マーシャの事まで否定してしまう事になる。彼女の能力は今も完全には信じられないが、今迄その能力に救われてきたのも事実だ。
 それに、昔にも今と同じ様な事があった。エルが娘を身籠った事が分かる前、見知らぬ女性に予言めいたものをされた記憶が残っている。

 もし、この手紙を自身に寄越した人物がその時の女性なら。
 ただのタチの悪い悪戯だと言い切るのは、今日を無事終わらせてからでも遅くない様に思えた。

 スラックスのポケットに入っているのは、護身用のジャックナイフ。
 これが何処まで約に立ってくれるかは分からないが、少なくても丸腰よりかはマシだ。

「これ、処分しておいてくれ」

 濃い皺の付いた手紙をライリーの手に押し付け、足早に店を離れた。
 彼女の不安気な声を背で聞きながら、職場への道を急ぐ。

 手紙の差出人である人物が指す、“壊れた人形”とは一体誰を指しているのだろうか。
 考えられるのは逆恨みをした依頼者位だが、ここ数年で特別恨みを買う様な依頼者は居なかった筈だ。
 自身を狙う人物さえ明確に分かればもっと他に対処が出来るのだが、たったあれだけの文章では特定など当然出来やしない。

 左手に持った懐中時計の分針は、58分を指している。
 人混みを避けた所為か、周囲に人は殆ど居ない。見晴らしの良いこんな道で、果たしてその人物は本当に自身を狙おうとするのだろうか。
 ぐるぐると頭を回る思考を、掻き消す様にただ只管に両の足を動かす。

 3時迄、残り1分。
 自然と鼓動が早まり、酷く息が詰まる。首を絞められている様にも感じられるその感覚に、無意識的にネクタイを緩めた。


「――!」


 突如その場に鳴り響いた、力強い女性の靴音。
 確実に此方に向かってきているそれに、緊張感が最高潮に達する。

 相手が女性なら、身に着けた護身術を駆使すれば攻撃位かわせるだろうか。
 答えはNO一択だ。10年以上も前に身に着け、今迄一度も使ってこなかった護身術など何の役に立つというのだろうか。
 それに、護身術はあくまで身を守り、そして逃走する為の物。言わば時間稼ぎだ。戦闘術や殺人術とは訳が違う。

 では一体、どうすれば良いのか。
 その答えを探す様に、スラックスのポケットに手を差し込んだ。

 手の内の懐中時計が、3時丁度のカウントダウンを始める。
 歩く速度を上げれば上げる程、背後の靴音も早くなる。このままでは埒が明かない。
 意を決して早くその正体を突き止めなければ、あの手紙通りになってしまうかもしれない。

 時針が3時を指し、分針と秒針が重なる丁度の時間。
 ジャックナイフをポケットから取り出し、歩く足を止めるのと同時に振り返った。
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