14 / 149
陰間はツラいよ!?
仕入れ 壱
しおりを挟む「だから……仕入れってのは菊座を慣らすことだよ」
「菊座?」
「ここだよ」
「ひ、ぎゃあ!」
なずなの四本の指が「菊座」に突き刺さる。
直接的触られて飛び上がるほど気色が悪い。
そう。俺は今、なずなと風呂場にいて、陰間になる準備とやらをレクチャーしてもらっているのだ。
華屋の裏には湯殿があって「鉄砲風呂」と呼ばれる、スーパー銭湯で見るような木枠の一人用の浴槽が二つ並べられていた。
仕事が明けた順に入るから、まだ陰子の俺が入れるのは一番最後だけど、今日はなずなと一緒だから少しだけ順番が早い。
もちろん水道やガスなんかはない。また、石鹸もないから、陰間が体を洗うのには柘榴の皮を乾燥させて粉状にしたものを使うらしく、これを体にすりつけると肌が滑らかになるそうだ。
そうやって一緒に体を洗ったあと、気になってなずなに聞いたのが「仕入れ」のことだ。劇場の茶屋で客を前に権さんが言ってはいたけど、俺はそれを芸を習うことだと思っていたのだ。
「なんて声だい。色がないねぇ。そんなンでやっていけんのかい」
言いながら、浴槽に入るよう手振りで示される。
「が、がんばる……元気があればなんでもでき……いや、なるべくなら芸一本でいきたいんだけど……ブッ!」
俺が浴槽に足をかけると、なずなが湯を顔に跳ねつけてきた。
「毎回毎回なにすんだよ!」
「百合、私らや仕事を蔑んでんの? 昨日もそんなこを大層な声で言ってたじゃないか」
「や……あの、そうじゃなく……」
ないと断言できるのだろうか。時代が違うからと頭では納得しても、心では「売春は売春。しかも男相手に」なんて思っている俺がいる。
でも、目の前のなずなや他の陰間に対して偏見や批判めいた気持ちがあるわけじゃないんだ。今日の見世を見て、陰間達がどんなに努力しているのかも感じ取れたつもりだ。
でもやっぱり男相手……にいや、違う。
俺には相手が男とか女とか関係ないのかもしれない。 そう言う行為自体に嫌悪を感じてるんじゃないのか?
「俺、ここに来るよりずっと前に、義理の父親に……その……」
言いかけて寒気が走る。
────十三の冬。義父に裸の体を撫で回されたこと。それ以前からも妙に体に触れられたりしていた──を思い出す。
義父がバイだったのか少年嗜好があったのかなんて知らないし知りたくもない。でも俺は、あの風呂場での一件以降、性行為を不潔なことのように感じている。
そして、あの日から、義父との関係は悪化の一途をたどり、母親とも上手くいかなくなった。徐々に家に俺の居場所はなくなり、高校に入ってからはほとんど家に帰らなくなった。それから勝手に高校を中退して家出して……。
「ああ、淫姦でもされた?」
なずなは事も無げに言った。そして続ける。
「そんなの良くあることさ。本人にしてみれば傷に感じるだろうさ。でも、それだけ色が備わってたんだと思いなよ。そンでさ、絶対次はタダでやらせない、って誓うんだ。私らは商品だから。お客様に一時でも春を感じてポカポカして頂く為にいるんだ、って。芸も大事。でも体の暖かさって本当に人を癒すんだ。だから私は売れちゃあいないけど仕事に誇りを持ってる」
会話から、恐らくなずなにも似たような経験があるんだと感じた。それでも自分なりに折り合いをつけて、芸の世界で生きていくと決めてからは血が滲むような努力をしてきたに違いない。
なずなの傷はなずなのもので、俺の傷は俺のものだけど、小さく縮こまったままの自分が情けなく思える。
「……なずな、達観してるなぁ。何歳なんだよ」
「十と三つだけど?」
「じゅ、じゅうさん!?」
そりゃ年下だとは思ってたけど六つも下?
荒れるしかできなかったあの頃の俺とは全然違う。体も中身も随分大人じゃん……確かに俺が十六でも通じるはずだ……。
「ほら、出るよ」
なずなが浴槽から立ち上がる。
「私は今から菖蒲さんのお座敷と、褥が二人だ。ゆっくりしてられない。百合は権さんのところに行きな」
「お、おお」
なんで権さん? 権さんから菊座の広げ方を習うのか? 上手くやれるかなあ……本気。
「そうだ、百合」
風呂場の前室。自分で指を入れるのを想像して、ボヤっとしながら浴衣を羽織る俺に、飲水用の樽から水を掬ったなずなが振り返る。
「まだアンタを認めたわけじゃないから。特別な名前をもらったこといい、権さんがアンタだけの金剛についたこといい、なんの結果も出していないアンタには納得できないことばかりだ。他の陰間達も同じさ。ようようお気をつけなんし」
言い終わるなり、なずなは持っていた水をバシャッ! と俺にぶっ掛けた。おかげで浴衣がずぶ濡れ。
くっそ、アイツ……。ちょっとでも分かり合えたなんて思って損した。
見てろ。ぜーったい見返してやる!
鼻息荒く浴衣の水分を絞った俺は、権さんの部屋へと向かった。
5
あなたにおすすめの小説
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる