枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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陰間はツラいよ!?

仕入れ 弐

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 湯殿から華屋の棟に戻ると、さっきまでは微かだった三味線や笛の音色が一音一音鮮やかに聞こえてくる。

  「風流だねぇ~」
 現代の音楽のノリとは全然違うけど、政治家とか有名芸能人とかってこんなのを料亭とかで聞いて楽しんでんだろうな。まったく良いご身分だよ……って、華屋に来てる客もかなり良い身分の僧侶や侍、大店おおだなの商人が多いって聞いたっけ。
 どの時代も金持ちは道楽遊びが好きらしい。


  金剛まわし部屋が並んだ一番奥が権さんの部屋。褥部屋の襖とは違い、飾り気のない、素朴な木造りの扉をドンドン、と叩く。
  「権さん、いる~? なずなにここに行けって言われたんだけど」

  「おう、百合。来たか。さっそくやるか」

 ンッ·····。
 その言い方、権藤さんとのことを思い出す。


  「よろしくお願いします·····」

  「お、殊勝だな。ん? おめェ浴衣がズブ濡れじゃねぇか。どうせだから脱いじまえ」
 言われて浴衣を脱ぎ、板の間に置いた。

  「ん、よし。じゃあそこでしりを上げろ」
 権さんが親指で示した先は布団。

  「は?」
 布団、いる? そこで臀、を出す? 権さんに臀を突き出すの? やり方教わって自分でやるんじゃ……

  「どうした。触られるのは初めてか? 優しくしてやるから安心しな」

 「ぐっ……」
 やっぱり重なる権藤さん。ていうか、優しく

  「ちょ、待って·····ほんとに権さんにされるの?」

  「ったりめェだろ。他に誰かいるってんだ。心配すんな。今まで百以上を仕入れしてきたんだ。見ろ、俺の指を。爪なんかもう伸びてきやしねぇよ」
 勲章を見せるように右手をかざす、得意気な権さん。

  「いやいやいやいや、ムリ、ムリだから」

 「なぁに言ってやがる。おめェ華屋ここで大華になるんだろ? 腹、くくりやがれ」

 権さんに肩を押されて、仰向けで布団に倒れ込む。そのまま赤ん坊のおむつ替えみたいに足を固定され、臀を撫でられた。
 
  「上豚良い尻だな。肌も吸い付くようだ。こりゃ上客が付くぞ」
 臀をぺちぺちと叩いて言いながら、権さんは枕元にあった紙包を掴み、中に入っている粉を口に含んだ。なずなに教えられた、江戸時代のローション「通和散」だ。通和散は唾液と混ざると糊状に膨らむ。
 権さんはどろり、としたそれを口から手に移し、自分の手と俺の後ろの穴に塗りたくった。ぬらぬらとした感触が気持ち悪いし、あの日がフラッシュバックして吐きそうになる。


  「よし、まずは小指から入れるぞ」

  「!」

 目の前にいるのはで、されているのは褥仕事の為の準備。

 でも、でも……!
 
 権さんの顔と権藤さんの顔が入れ替わり立ち替わする。どうしたって同じ顔。そして、過去あの日の義父の気持ち悪い笑みまでが重なる。

  「……や、いやだあ━━━━━!」



 それからあと、どうしたんだかまるで覚えていない。気づくと俺は、裸のままで暗がりの部屋の中にいた。

 寒さに我を取り戻して体を動かした時、コツン、となにかに肩が当たって、自分がついたての後ろにいるのがわかった。

  「部屋に戻らないと·····」
 のっそりと体を動かす。

 権さんにも謝りにいかないと……でも俺、裸……どうしよう。

 目が慣れてきてキョロキョロと部屋を見回すと、調度品が飾られているのがわかった 。衣紋掛けには豪華な刺繍の着物も掛けてある。

  「すいません、借ります」
 片手ですいません、とポーズを作り、羽織ってみると凄く肌触りが良くて、気持ちも落ち着いてくる。

  「さあ、行かなきゃ」
 ……でも、その時。

 部屋の襖が開いた。


  「!」
  「!」
 入ってきたのは咲華さきかと、その客だ。

  「牡丹、この者は何者じゃ?」
 客は驚いた顔はしたものの、慌てることはなく、すぐに落ち着いて咲華に聞いた。
  
 ……この人、昼に茶屋の個室に入った坊さんだ。

 咲華も咲華で俺を見て一瞬は眉を寄せつつも、すぐに柔らかい笑顔を坊さんに向けて、艶っぽくしなだれた。

  「寛永様。今日は少し違った趣向をご用意致ました。この者、新しき陰子に御座いますが、色香を教えたいと存じます。お嫌でなければわたくし達のまじわりを見せたいのですが·····」

 坊さんの顔が気持ち悪いくらいぐにゃり、と綻ぶ。
  「ほう、なるほど。なるほど。牡丹、そなた見られるとより悦く成ると申していたこともあったな。いいだろう。私も嫌いではない。新造新入り、良く見ているがいい。牡丹のしとねは素晴らしいぞ」

「なっ·····!」
 冗談じゃない。なんでそんなこと。

 俺が急いで外に出ようとすると、咲華は襖の外にいた金剛に目配せをした。金剛は頷くと、ぴしゃり! と襖を閉めた。

 そして、逃げ場をなくした俺は、咲華の「それでは、始まり、始まり」の声を背中で聞いた────
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