枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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出逢いと因果

ヒーロー登場!?

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 逆光で顔ははっきりしないけど、その影の雰囲気はヒーローそのもの。

  「旅の人、この街じゃ昼間に営業している陰間はいないんだ。望みなら夜に引手茶屋総合案内所で正規に申し出てくれ。それにこの界隈で騒ぎを起こされても困るんだ。酒が抜けるまでは宿で休むといい」
 バリトンボイスでそう凄むと、男をお付きの者らしい影に預け、俺に手を差し出した。

  「百合、大丈夫か?」

  「·····は·····え·····?」
 俺を知っていることと、近づいてわかったその人のイケメン具合に呆けてしまう。

 八頭身のスタイルに品の良い身のこなし。涼やかな目元とスッキリと形の良い眉。そこから続く筋の通った鼻。瞳と同じで黒く艶のある髪は綺麗に結われている。
 見たところ二十五、六というところか。現代でモデルか俳優をやれば間違いなくトップクラスで、イケメンの定義が全て当てはまる。

  「怪我はないようだが、なぜ一人で外に出ている? 送ってやるから店へ戻るといい」

  「あ。はい。いや、俺·····」
 戻れない。
 お使い物が篭から転げて、線香は折れて豆腐はグチャグチャ。
  「こんなんで帰ったら今度こそ追い出されちゃうよ·····」
 しゃがんで荷物を片付けながら、しゅんと肩を落とした。

「なにがあった? なぜ使いなど·····まあ、いい。使い物は買い直せば良いし、私が一緒に謝ってやるから」
 イケメンは片膝をついて目線を合わせて微笑むと、荷物を一緒に篭に入れてくれた。

  「あの·····すいません、どなたでしたっけ」
 昨日見世の飲食処にいた客の一人だろうか。でも、広間にはこんな身分の高そうなイケメンはいなかった。

  「ああ、そうか。お前が目を覚ましている時には会っていなかったからな。私はこのあたり一帯の責任を負っている保科家の保科忠彬ほしなただあきらと言う者だ」

  「あ·····!」
 この人が「ホシナサマ」!
 俺が想像していた「ホシナサマ」は恰幅のいい、いかにも地主風貌の中年層だったのに、これは男の俺でも見惚れてしまう。確かにこんな色男に世話になったら陰間達から妬まれても仕方ないなと妙に納得した。



 それから、保科様はお使い物を買い直してくれ、華屋に戻る道すがらに俺の話を聞いてくれた。

 昨夜のこと、でも元の始まりは義父や仕事関係で襲われそうになったことで、それが原因で川に飛び込んだことも。
 保科様はただ頷くだけだったけど、その相槌がとても優しくてタイミングが絶妙で、なんでも話していいって気持ちにさせてくれた。

  「……だから、俺、陰間の仕事を蔑んでいるわけじゃないんだ。ただ、やっぱり俺が元いた世界じゃ当たり前のことじゃなかったし、なにより怖くて……どうしても過去の記憶を乗り越えられないんだ」

  「わかるよ」
 保科様はポンポン、と俺の背を撫でてくれた。



 小半時15分ほど歩けば華屋の店先。

  「ただいま戻りました·····」
 おずおずと声を出すと、女将がまたもや凄い形相でやって来た。

  「百合! 使いにいつまでかかってんだ。本当にあんたはなにをやらせても……って、ええ? 保科様? 昼間にわざわざどうなさいました!?」
 女将は俺の後ろの保科様に気づくと急に声色を変え、かまちに正座する。髪を撫でつけたりもしながら、妙に女らしくシナを作って両手をついた。
 女将の声を聞いた旦那も帳場から飛んで出てきて、同じように手をついて頭を下げる。

  「やあ、出迎えありがとう。それよりなぜ百合を金剛まわしもつけずに外に出したのだ? 先刻、このあたりの掟を知らぬ旅人に絡まれていたのだぞ。百合ほど美しければそのような危険、すぐに案じられたはずだが」

 ─────美しい? 今俺を美しいって言った!?

 イケメンに庇ってもらった上に褒められて、背中がむず痒くなる。

  「へへぇ、申しわけありません。保科様、ここじゃ失礼なんでひとまず奥にお入りください」
 二人はヘコヘコと頭を下げて俺達を奥の広間に促した。



 朝と同じく俺の前には女将と旦那。違うのはその表情と座る位置が真逆になったこと。俺の横には保科様がいるから、流れで俺も上手側に座っているのだ。

  「話しはあらかた聞いた。百合には過去に因果があるようだ。今までもそういう子がいて道半ばに帰してしまったのを、私はずっと悔やんでいるんだ」

 ……そうなのか。皆、なずなのように強い気持ちがあったわけじゃないのか……。

  「ゆえに、もうそのような事態は避けたい。それでどうだろう。しばらく百合を私が預かろうと思うのだ」

  「えっ!」
 女将、旦那、俺の声が揃う。

  「勿論、そのあいだの揚げ代しはらいは納めよう。また、預りの期間は芸の稽古も、仕入れも責任は持とう」

 えええええ。な、な、なんだって?

 俺達華屋の三人は行動が揃い、目を白黒させてしばし言葉を失った。やっとのことで言葉を発した旦那の声も、ちょっとばかり裏返っている。
  「そりゃもう、ありがたい話ですが、宜しいんで?」

  「ああ、才能ある陰子みならいを育成するのも保科家の務めだ。元はと言えば私が百合を華屋に任せたのだし、責任がある」


  「ははあー」
 時代劇のドラマまんまに、女将と旦那が頭を下げる。
 俺がポカンとしていると、旦那はいつもの手刀を俺に落とし「おめぇも頭を下げるんだよ!」と怒鳴った。

 ……嘘ぉ? こんな棚ぼたあり? 大手芸能プロダクションの元締めが世話してくれる、って話だよね? 今までのハズレ人生をひっくり返すくらいラッキーじゃないか?  

 俺、これで運を使って芸能界ではお呼びでなくなるとか、そんなんないよね?
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