枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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出逢いと因果

居候

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 夢見心地で若草部屋に荷物を取りに行った。と言ってもなにも持たずに江戸に来たから、ここでもらった少しばかりの衣類だけだけど。

 それを風呂敷に包み、小走りでパタパタと足音を立てて店先に戻ると、女将だけでなく奥にいた陰間や下働きの雇い人までもが保科様を取り囲んで沸き立っている。さすがイケメン……。


  「ほしなさ……」
  「保科様!」

 俺が声をかけようとすると、ちょうど稽古から戻ったらしい楓が揚々ようようとして声を上げた。

 いつも彫り物みたいに表情筋を使わない顔をしているのに珍しい。楓も保科様のファンてところか……てことは、俺がここで出ていったらなにを言われるかわかったもんじゃない。

 うん。楓が部屋に戻るまで隠れていよう。
 
  「保科様。今日はもうお帰りになるんですか? 私、今日は座敷だけで褥はお休みを頂いてるんです。良かったらお休みになって行かれませんか?」

 おお……大華自ら営業かけてる。しかもあんな可愛い声、出るんじゃん。
 保科様、どう返事するんだろ。俺の世話をするとはいえ、別に遊び歩いちゃダメってわけじゃないし、そこまで俺に構ってられないだろうしな。

  「すまない、楓。しばらくは。登楼できあがれないんだ。百合が立派に務めに出るまで私が世話を買って出たから責任があるんだよ」

 NOOOOOOOOO~~~~! 
 保科様、正直過ぎる。真面目過ぎる。そこは上手くかわしてーーーー!

 時、既に遅し。楓の顔つきが途端に変わる。
  「なぜ保科様が百合を……!」

  「楓。物事にはないんだよ。私達の一切は因果で決まっているんだ。私が百合を拾い、華屋に預けたのも因果。そして私が預かることになったのもまた因果なんだ。同じように、楓とも触れ合う時がまた来よう」
 保科様はどこまでも穏やかに言うけど、楓の背後からは炎が見える……そして野生の勘か、柱の影に隠れている俺を目ざとく見つけ、荒々しく草履を脱いでツカツカと寄ってきた。

  「百合。お前はどこまでも忌々しい。いいか、保科様に面倒かけるんじゃないよ。一刻も早く使えるようになって、さっさと保科様の前から消えな!」

 さっさと華屋に戻って来いって言わないのが楓らしくていっそ清々しい。
 こんな時、真正面から向かっても事が荒立つだけなのはもうわかってる。

 俺は深く頭を下げ「申しわけありません。ご迷惑をおかけします」と棒読み台詞を言って、楓の目は見ずに保科様の元へと駆けた。


 かくして保科家で居候の身となり、指導を受けることになった俺だけど、保科様が直々に世話をするということだけで「百合しょうひん」の価値が釣り上がる。
 華屋にとっては願ってもない佳い話だと言うことで、保科様からお代金は頂かないことになり、それは俺自身が心底安心した。
 なにもかも世話になるのに金を払わせるなんてとんでもない。
 

 そして只今保科邸に入ったばかりの俺の口は、あんぐりと開いている。
  「いや、マジで。俺こんなとこで世話になっていいの……?」
 保科邸は華屋の倍以上もある大きさで、これまた時代劇で見るような、高い塀にぐるりと囲まれた立派なお屋敷だった。 

 保科家って、武士でも貴族でもないんだよね? なにをやったらこんな豪華な家ができるんだ……ああ、総合プロデューサーだからか? 地主みたいなもんだと権さんが言ってたもんな。

 室内も豪華で、たくさんの調度品に値が張りそうな襖絵。所々に金箔なんかも貼られてキラキラしている。長い廊下の角を曲がるたびに使用人に出会いもした

  「派手だろう? 上方かんさい生まれの母の趣向なんだ。私はあまり落ち着かないんだけどね」

  「はあ……あの、保科様のご家族はどちらに? ご挨拶しなきゃ」

  「ああ、今は夫婦二人で上方かんさいの方で遊んでいるんだ。姉もとっくに輿入れしたから、今は一人で住んでいるも同然でね。だから百合が来てくれて嬉しいよ」

 うはっ。キラキラ笑顔、眩しっ……。
 やばいな、この人のイケメンオーラ。しかも俺に気を使わせまいとそんなふうに言ってくれてるんだよね。

 江戸に来て、初めて受けたさりげない人情にホロリときそうになる。
 あ、権さんのことは忘れちゃいないからね! 立派になって帰るから待ってて!

  「あの、とにかくよろしくお願いします!」
 俺は、多分江戸に来てから一番の笑顔でそう言った。


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