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出逢いと因果
蕩ける朝 ❁✿✾ ✾✿❁︎
しおりを挟むザー。ピチョ、ピチョン……心地いい音。なんの音だろう。あ……雨の音?
ああ、そうか。ここは江戸だから。
現代にいた頃よりも自然の音が近いんだ。庭の木の小枝に雨粒が当たる音や、屋根から地面の水溜まりへ落ちる雫の音まで聞こえてくる。
不思議だ。今までの何倍も感性が研ぎ澄まされる気がする。だって、昨日も尋常じゃないくらいに感じて……。
「朝っ!?」
目を開けると、雨の為に明るさがないとはいえ天井全体が見渡せ、夜が明けたことを知る。
「おはよう」
顔を横に向ければ、脱いだはずの浴衣をきちんと着せられた寝ぼけ眼の俺を、肩肘ついて見下ろしている保科様の優しい微笑み。
「おはようござ……」
……あっ!?
「俺、先に……寝ちゃっ……すいません! 俺だけ気持ち良くなって、挙句寝ちゃうなんて」
「いいんだよ。それだけ満足してもらえたなら」
保科様は俺の髪を梳くように撫でた。
「満足……しちゃいました……すいません。でも、だからちゃんとお返しします!」
ゴソゴソと布団に顔を潜らせ、保科様の浴衣の腰紐に手をかけた。でも、保科様の手がそれを阻む。
「私のことはいいんだよ。仕入れの一環なんだから」
仕入れの一環……。
そう、か。そうなんだよな。昨日、俺に触れる保科様からも熱感を感じて「もしかしたら」なんて期待を持ちそうになったけど、保科様にとってはやっぱりただの「育成」なんだ……。
俺のこと、可愛い、愛しいなんて言ったくせに。
保科様の胸にぽすん、と顔を埋め、ぐりぐりと押し付ける。
「悔しい。保科様も俺のことを好きになればいいのに」
俺が言うと、保科様はふふふ、と笑った。
「昨日のゆうりはあんなに色があったのに、今朝のゆうりは凄く可愛いね。どちらのゆうりも好きだよ」
あ~もう。そういうとこだよ。
特別になんかできないくせに、さらっと「好き」とか言っちゃうの。だから皆、保科様に夢中になるんだからね!
「どーせみんなに同じこと言ってるんでしょ」
「さぁ、どうだろうね」
ちゅ。
保科様が俺の瞼にキスをする。
ちゅ、ちゅ。
それから頬、唇の横。
「保科様?」
キスの嵐に首をすくめると、保科様はまた俺の髪を撫でた。
……あ、昨日みたいな優しい目。
「今日は雨だから仕事をさぼろう。起きるにも今少し早いし、しばらくこのままこうしていようか」
今度は音を立てずに唇が触れた。唇の表面の感触を楽しむような軽い触れ合いから始まって、角度を変えて、深く押し付けるキスへ。やがて水音を伴い、互いを喰む。自然に舌は絡まり、口の中に熱が流れ込んだ。
二人、舌で追いかけっこをして、歯の裏や上顎を撫で合う。俺には全部が初めてだけど、保科様がしてくれるのと同じこと、返したいから必死であとを追った。
ねぇ、俺上手くできてる? 保科様も気持ちいい?
長いキスの途中、口の中がどっちのなのかわからない蜜液でいっぱいになって、飲み込むけれど間に合わなくて、息つぎの途中で口の端からつる、と溢れてしまう。
保科様がそれを舌で拭ってくれて、唇が離れるのは寂しいのに、お腹の奥がじん、と熱くなった。
「ふぁ……保科様、どうしよう、俺また……」
体の中心が硬さを持ち始める。
「あぁ……元気だな、良いことだ。大丈夫、私に預けなさい」
仄暗さは残っていても朝は朝。夜着と着ている全てを一つずつ剥がされると、俺のあけすけな全てが保科様の目に晒されてしまった。
「や……恥ずかしい……」
まるで女の子みたいな言葉が自然に出る。俺、女形どころか、ほんとに女の子になっちゃうかも。
「昨夜は暗くて質感しかわからなかったが、やはり素晴らしい肌をしている。こんなに艶やかで滑らかで……上質の絹だな。下の毛まで美しく揃って、奇跡のようだ」
あー、はい……。江戸の方からしたら奇跡ですよね。Iラインを少し残したほぼ全身脱毛で、指の毛も残ってないんだから。
菊川社長には「俳優になるのに関係ないだろ」なんて呆れられたけど、保科様が褒めてくれるなら、やっぱりやっといて良かった~。
けど、こっちに来てからは全身トリートメントができてないからなあ。
「あんまり見ないで下さい……」
「そうだな。見るより味わおう」
つつ、と保科様の舌が胸骨から臍へ流れる。
「あンッ……」
追り上がる快感。~俺の昂りがぴくぴくと反応する。
「もうこんなにして。ゆうりは誘い上手だな」
保科様の手に包まれる。でも昨日みたいに優しくない。ぐ、と力を込めて握られ、裏筋が伸びるまで引っ張られる。
「あっ、や、ァッ」
そうかと思えば先走りを絡め取り、親指で先とくびれをグリグリと弄って、底のない快感へと俺を導いて行く。
「んっ、んん。やだ、一人でイきたくないっ。保科様、保科様」
体の中心から指の先まで広がる快感が怖い。なにかをしていないと気が変になりそうで、俺は無意識に保科様の太もものあいだに手を伸ばしていた。
「……駄目だよ、ゆうり」
大きな手に阻まれる。
やだやだ……俺は子供がイヤイヤをするみたいに首を振る。
だって、一人で変になるのは怖い。熱い波に攫われるなら保科様と一緒がいい……保科様も、一緒に気持ち良くなって?
「私につかまっていなさい。力を入れてもいいから」
保科様が自分の浴衣の上半分をはだけさせ、あらわになった胸板を俺にぴたりと寄せてくれる。
保科様の素肌はあったかくていい匂いがした。隙間なくくっつきたくて、筋肉が張った首に手を回してぎゅっとしがみつく。
「少し落ち着いたか……? ゆうり、名はどう書くんだ?」
耳元で静かに囁かれれば、かかる息さえ官能を引き起こす。
「名前? んッ……悠久の悠に理由の理……あ、は……んッ」
「そうか、良い名だな。……悠理……悠理」
確かめるように名を呟いてくれる。まるで、俺を心からわかろうとするみたいで嬉しい。
保科様にとっては数多くいる陰間や遊女のうちの一人かもしれないけれど、せめてここにいるあいだだけは。
保科様に抱かれているあいだだけは、恋人のように過ごしたい……!
「ん、ふ……ぅ、保科様、イきそう……」
こみ上げる吐精感に腰を揺らすと、保科様はゆるりと身体を離し、今にも爆しそうな昂ぶりに視線を注いだ。
「……っ。やだ、体離さないで……ンッ……そんなに見ちゃやだ……あっ、ああ…………!」
くびれを握りながら、ぐ、と鈴口を拡げ押される。
同時にびくん、と体が跳ね、青い匂いいっぱいの濁りがびゅるっと飛び散り、保科様の頬をも濡らした。
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