枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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暁ばかり憂きものは

大華 楓 壱

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 太陽の日差しが強くなった時期、上方から保科様のご両親が戻られ、女将と旦那、楓が保科家に挨拶に行った。その際、華屋の舞台の構成を大きく変えたいと楓が申し出て、大旦那様の了承を得たそうだ。

 俺は行かなかったから、その話を掻い摘んで聞いただけだし、帰り際に保科様が俺の様子をお聞きになったことも、楓が「ご心配なく。百合のことは私に全てお預け下さい」と強い口調で言ったことも……知るはずはなかった。



 見世では舞台の新しい構成へ向け、経営首脳陣に華達を加えた面子での話し合いが日々行われていた。そこには、楓からの口添えで一員に加わった俺までいたりして……俺は現代で得たあるだけの知識を伝え、裏方作業にも尽力した。

 江戸じゃ電気は使えないけど、日の光が差す方向や蝋燭ロウソクの火を使えば幻想的な空間を作ることはできたし、舞台の装置を監修している自称発明家の職人さんと話をして、花道を効果的に使う方法や回り舞台、奈落の設置を提案し、すぐにできる案としては、舞台の後ろに掛ける幕に変化を持たせて、場面転換をわかりやすくしたりもした。加えてアイドルがコンサートで使うトロッコとか、早着替えの提案も喜んで聞いてもらえた。

 自分が役に立つと嬉しい。事件を忘れることはできないけれど、俺の中で少しずつ、しこりが溶けていく……まだ褥仕事をするのは怖いけど……。

 人の思いの強さが怖くて、仕事だとわかっていても、誰かと体を繋げる自信がないのだ。


  「女将がそろそろ褥仕事を始めるよう言ってるな」
  舞台の帰り、権さんにくしゃくしゃと頭を撫でられた。
 権さんなりにも気を使ってくれているのだろう。

 事件の時に自分がしっかりしていれば、と何回も謝ってくれた権さんは、あれからめっきり歳を取ったみたいに萎びれたままだ。権さんは悪くないのに、俺のせいでこんなに気弱になったかと思うと申しわけない。だから早く前みたいに頑張らなきゃと思うんだけど……。

 事件後、触れるのも触れられるのも怖くなった俺の菊座は硬く閉じている。権さんが仕入れのやり直しをしてくれたけど、吐き気を催し、小指一本受け付けないのだ。

 勿論、前も全く役立たずで「これじゃぁ女のお客さんにも使えねぇ」って旦那にぼやかれた。後ろが使えないなら女性客で補うつもりだったのか……と目眩がしたのは言うまでもない。

 また、小山内様が菖蒲さんの部屋に通うついでで診て下さったけど、難しい顔で「これは心の問題だから治るかどうか」と首を振っておられた。

  「なんとか……頑張るよ」
 そう言うしかない。
 権さんはうなだれている俺を見て、萎れたままの顔で頭を撫でてくれた。



 そして夜。
 風呂に浸かりながら自分の寝た子に触れてみる。握って扱いてみるけど、ぴくりとも反応しない。

  「はぁ……EDってやつかなあ……もうちょと先を触ったら……」

 風呂桶から出て、誰もいない洗い場で椅子に腰掛け、両手を伸ばした。

 その瞬間。

  ガラガラと音がして内戸が開いた。慌てて顔を上げると、楓が入って来ている。勿論、その視線は俺の股間に。

  「あ、あの、これは、そのっ」
 褥仕事も知られているし、キスもする仲だけど、この姿を見られるのは恥ずい。恥ずすぎる!

 急いで手拭いを引っ張り、股間を隠した。

  「別に……皆やってるし。それに褥仕事、頑張ろうと思ってるんだろ?」
 楓は俺が拍子抜けするほどあっけらかんと言って、隣の椅子に腰掛けた。

  「う……ん。でもダメみたい……」

 しばらくの重い沈黙。

  「…………やってやろうか?」

  「……へっ……」

  想定外の提案に理解がついていかず、呆然とした。でも、同時に、目の前にある楓の綺麗な裸体にどきりとした。

 暗がりにひとつ掛けられた提灯のもとで浮かび上がる蒼白い肌。それは彫像のように滑らかで肌理が細かく、手を伸ばして感触を確かめたくなるほどだ。
 また、着物を着ていたら華奢に見えるのに、晒された胸板や腹筋は間違いなく男を感じさせ、舞台の為の鍛錬を怠らない体躯には匂い立つフェロモンがある。
 そして……細く締まった腰の下のその下。下腹の芝は綺麗に手入れされていて、おかげで女顔には似合わない堂々としたがはっきりと見えている。

 って、見たら駄目だろう……いや、男同士だしいいのか? 「わ、おまえデカイな」とか、中学生みたいにおどけてみる? いやいや、陰間にそれは正解なのか?

  「ぷっ、なにを狼狽えてんだよ。下の子の世話もしたことあるし、任せな。大華の楓さんの技術を見せてやるよ」
 楓がクスクスと笑って手を伸ばして来る。

  「や、だめだって、それは……ン……」
 いつものように唇を塞がれる。
 楓はもう、俺が口の中でどう感じるのかを良く知っている。
 抗えない……自然に力が抜けて、腕を楓の背に回して体を預けた。

 顔の角度を変えながら口内を愛撫し、片手は俺の下半身を撫でている。
  「やりにくいな。立って」
 言われて、洗い場の木壁に背中を付けるように固定された。

 再び唇が重なり、手の動きも再開される。楓の綺麗な細い指が、俺のものに絡まり上下した。

 ……気持ちいい……

  でも…………素肌の他の部分を触られているのと同じ気持ち良さまでしか感じられず、そこはやっぱり柔らかいままだ。

  「だめか……」
 楓はキスを中断し、俺の情けないものを見る。それから少し考えると、片膝をついて頭の位置を下へとずらし、俺の太ももを掴んだ。

  「ちょ、楓、待って」
 なにをされるか想像は容易く、俺は慌てて股間を隠した。

 いくらなんでもそんなこと、楓にさせられない……!
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