枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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大華繚乱

陰子 弍

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  俺に任された以外の二人は十四歳と十五歳。華屋に来た日は人生を嘆くような悲壮な顔をしてはいたものの、すぐに芸の道で生きて行くのだと決意し、仕入れにも稽古にも奮励して若草としてスタートを切った。



  「蘭、お茶の淹れ方が上手くなったね」
  「はい。百合様、ありがとうございます!」

  俺の前であどけない笑顔を見せるこの子はまだ十二歳になる少し前。しかも旗本の嫡男だったこともあり、陰間の仕事を受け入れ切れない様子だった。

  体を売る仕事を穢らわしいと思ってしまうのは仕方ない……俺でもそうだったのだから。
  だから、旦那と女将に言って、仕入れまで少しだけ時を伸ばしてやるように頼んだ。宗光からの俺への膨大な揚げ代を回せば、この子を吉原でいう禿のように、そばに置いてやることは造作もなかった。

  宗光は最初は俺が蘭の世話をすることに、最初はなかなか首を縦に振らなかったけど、やはり仕事が忙しく、華屋に居着く時間が減った為にしぶしぶと了承した。
  華屋に登楼した時には必ず宗光と二人で過ごすことを条件にして。


  「蘭、今日は宗光様がお帰りになるから夜は一緒に寝てやれない。若草の部屋で寂しいだろうけど、少しずつ慣れるんだよ?」

  「……はい……」

  蘭がすり、と体を寄せた。不安なんだな。
  俺と同じに初めから高貴な花の名前を当てられ、特別に大華の世話を受けている蘭は妬みの対象になりやすい。若草部屋では、俺も受けてきたような小さな仕打ちを受けているのだろう。

  でも、自分から華屋に心を開き、仕事で成果を上げていかなければ誰にも受け入れてもらえないことは、俺が一番良く知っている。
  だから一日でも早く、蘭が芸も褥仕事にも誇りを持てるよう、俺がその姿を見せていこうと思っている。

 「大華、宗光様がお帰りです」
  弥助さんの声がして、宗光が板を踏む足音が近付く。蘭の体が少し強張るのが伝わった。

  「百合ちゃん、ただいま。三日ぶりやな」
  「宗光様。お帰りなさいませ」

  部屋に入るなり、宗光が俺の顎を上げ、深く口づけをした。音を立て、唾液を垂らすほどに舌を絡めて蘭に見せつける。

  蘭は身をすくめて目を逸らした。

  「ほら、蘭ちゃん。ちゃんと見とかな勉強にならんで」
 宗光が揶揄うように言う。

  「け、穢らわしい……百合様にそのような色欲を向けるとは」

  「蘭、お客様に滅多なことを……」
と、俺も楓に言われたよなぁ。わかるよ。わかる。しかも蘭は俺に姉上を重ねているから、余計に複雑なんだろうな……。

  「あのなあ。愛し合うと当たり前にすることや。穢らわしない。俺は百合ちゃんを心底愛してるからな。自分、体開くのに抵抗があるんなら早く出世して唯一の客を見つけろ。そこで俺を睨む暇があるんなら、一個でもやれることやりぃや」

  蘭は肩を震わせてぎゅっと拳を握ると、立ち上がって「百合様、失礼致します」と部屋を出て行った。

  宗光はいつもやりようは悪いけど、蘭がもうこの世界にしか身の寄せ所がなく、一日も早く仕事を覚えていくしかないのだとわかっているからこそ発破をかけているのだ。
 
  だから俺も口を出さない。
  「でも……もうちょっと優しく言ってくれたなぁ」

 「ん? 必要ないやろ。俺が優しくするのは百合ちゃんだけやからな。……会いたかったで」
  宗光の唇が鼻の頭に落ち、首筋へと位置を変える。
  軽い音を立ててちゅ、と吸い付かれ、俺は宗光をなだめるように頬に触れた。

  「俺も。ねぇ、でも駄目だよ、見える場所は……」
  言うと宗光は、部屋に入ってから1番の柔らかい笑顔を見せて着物の合わせを解き、胸の先を口に含んで強く吸いながら、俺を畳へと横たえた。


*** 
  

  蘭はもともと利発なのだろう。
  多くのことの吸収が早く、それらを品良くこなすまでに時間はかからなかった。
  踊りも唄も楽器も……さらには知識事の吸収までも。

  俺が一年、二年とかかったことをすんなりやるとは、やっはり氏も育ちも違うんだろうなぁ。

  「顔は百合に似てるが中身は蘭が上かねェ」
  蘭の踊りの稽古を見に来ていた女将は、未来の大華候補を見ながら瞳を金貨の如く輝かせている。

  「女将さん、大華わたしを落とすようなこと、言わないでくれます?」
  「おや、済まないねェ。つい昔を思い出しちまって。今や華屋の看板の大華が、仕入れの時に半狂乱で逃げ出したなんて、今じゃ誰も信じないだろうね」
  「女将さん、それ蘭にはナイショね」

  俺が言うと女将はカカカッ、と豪快に笑った。
  でも、隣にいる旦那は懸念するように腕組みをしたままだ。
  「蘭も大丈夫かねぇ。芸の形はイイが、褥もできなきゃ使えねェからな」

  蘭が来てから二ヶ月が経ち、一緒に来た二人は既に客を取っていて、蘭の仕入れの開始時期についても徐々に検討が始まっている。
  担当は現在の金剛のまとめ役の弥助さんであるものの、蘭は俺にしか心を開いていない状態で、難航が予想されていた。


  「私が……やってみようか……?」
  おそるおそる旦那を見ると、大きなため息を聞かされた。
  「華がそこまで世話するなんざ陰間茶屋も末だ。流石にねぇよ。とりあえずは弥助にさせるさ。百合、オメェはとにかく蘭に良く言い聞かせときな」


  だよねぇ。
  ────そんなわけで俺は、蘭に仕入れと褥仕事について時間を取って話すことにした。

  したのだけれど。
「聞きとうございません。私は今は華屋に世話になっておりますが、早々にここを出て家の再建に尽くす所存でございます」

 蘭はきりりとした表情で背をピンッと張って、話を聞こうともしない。

「百合様。百合様もこんな所にいるお方ではありません。私が必ずや百合様もお救い致します」

「いや、だからね……」
 暖簾に腕押し、糠に釘、二階から目薬……権さん、あとはなにがあるっけ。

 俺は心の中で権さんにすがった。
 こんな時、権さんならどうした? 頑な心をほぐすのは一筋縄では行かないよ……いや、俺も、なずなにも「仕事を蔑んでいるのかい」と言われたし、権さんから逃げたりしていたから同じか。
 でも、俺は芸には真剣だった分だけ、まだ酌量の余地はあったはずだ。

「……蘭は私が見世で演じているのも恥ずかしいことだと思うのかい?」

 蘭の手を取り問うと、喉を詰まらせた。
「そうではありません。百合様は素晴らしい女形です! しかし私の夢は女形ではなく立派な武士になることなのです。どうか、どうかわかってください。そして私がお客を取らなくて済むようお助け下さい」
 手を握り返して力説され、しまいには涙目になる。

 ああ~。もう、権さん、懐柔ってどうやんの? 俺、全然大華らしくないじゃん。
 
「──大華、保科様が参られております」

 弥助さんの声に、頭を悩ませて丸まっていた腰がまっすぐ伸びる。
 
「すぐにお通ししますか? お待ち頂きますか?」

「いえ、大丈夫です。お通しして下さい」

 答えると、少ししてから襖が開き、保科様が大華部屋に上がられた。
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