枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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永遠の約束

再会

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  桜が散り切る前には退院が間に合い、タクシーの車窓から隅田川沿いの桜を楽しんだ。

  江戸での三年と少しの日々が夢ではなかったとしても、あの時代からは三百年近くが過ぎ、戦争や震災なんかで桜は植え替えをされているのかもしれない。同じ桜ではないとは思っても、ここを通ると胸に切なさが押し寄せた。

  ──夢だったのか現実だったのかは、楓に会えばわかることだ……。


  俺が今、退院した病院から直接向かっているのはフラワーアップエージェンシーだ。
  今日からはフラワーアップの世話になり、衣食住の世話までしてくれると言うのだから高待遇だ。

  それも全部楓が手配してくれたのかな?

  楓と会ったらとにかく再会を喜んで、たくさん話がしたい。江戸のこと、この現実との関係、そして……保科様がどうなったのかを。


  車が事務所の駐車場に入ると、下まで会社の人が迎えに来てくれていた。
どうやらsakusi-doのマネージャーさんの一人らしく、楓真が上で待ってますよ、と教えてくれた。

  一歩一歩、柳田楓真が待つ部屋に近づく。
 痛いくらいに心臓が跳ねてせり上がって、このまま口から心臓が飛び出しちゃうんじゃないかと思った。


  最上階の一番左端の部屋の前に着くと、マネージャーさんが扉をノックした。
  「鏑木さん、ご到着です」

  「あぁ、どうぞ」

  「──────!」

  ドア越しで小さくしか聞こえないけど、間違いなく楓の声。甘いテノールボイスだ。


  「百合……!」
  ドアが開いたその先、モード系のお洒落な服を着こなした楓がそこに立っていた。
  髪はもちろん長くも結ってもなく、テレビで見慣れた「柳田楓真」の姿だったけれど。

  俺は言葉を出せずにドアから一本入った先で立ち尽くした。

  パタンと音がして、後ろでドアが閉まり、マネージャーさんが出ていったのはわかったけど、案内してくれたお礼さえ言えなかった。

  楓は颯爽と俺に近寄った。
  「やっと会えた……。ずっと待ってたんだ」
  俺を引き寄せ、強い力で抱きしめる。

  「かえで……」
  本当に楓だ。体つきもあの頃と変わっていない。

  楓に最後に会ったのは俺の最後の舞台の日。あれから数ヶ月と考えるのか三百年と考えるのかはわからないけれど、現実に今ここにある楓の感触に涙があふれた。


 ***


  それから小一時間ほど楓と話した。
  そのあいだ中ずっと、楓の手は俺の右手を固く握っていて、内心、俺はドキドキしていた。

  浮気じゃないよ? やっぱり、イケメン過ぎるんだよ。
  強い意思を感じる大きな瞳に高い鼻。しまりのある口元、そしてシャープなフェイスライン……さすが「sakusi-doの絶対的センター・柳田楓真」

  顔面世界遺産柳田楓真は数々のタイトルを持っている。
  付き合いたい男ナンバーワン
  デートしたい男ナンバーワン 
  男が憧れる男ナンバーワン
  抱かれたい男ナンバーワン………

  だ、だかれ……。俺、楓に……いや、抱かれてはいない。何度も気持ち良くはさせられてたけど、最後まではやってないんだよな。

  って! 俺はなにを考えてるんだ。俺には保科様という人がいるのに、元カレだからって思い出すのダメ、絶対。

  「百合、どうした?」

  「んっ!? なんでもナイ! ……そうだ、俺の名前、悠理って呼んでよ。百合って、なんだか気恥ずかしいんだ」

  「ああ、そうだな。わかった。じゃあ俺も楓真、な」

  「……恐れ多いな。無名の俳優志望が柳田楓真様を呼び捨てにするとか」

  俺が縮こまると、楓真は「なんだよ、それ。俺は本質は変わってないよ」と笑った。



  「……なぁ、聞いていい? 江戸でのこと、現実だったのかな? 俺、ずっと病院で寝てたみたいなんだけど、楓真には記憶があるんだよね?」

  「そう、それなんだけど……」


  楓真は自分は江戸時代から平成の時代に転生したんだと思う、と言った。
「市山屋楓雅」としては六十代で人生を終え、次に生まれたのが平成。
  楓としての記憶は十歳くらいから段階的に、ゆっくりゆっくりと蘇ってきて、高校に上がる頃にはほぼ補完されたそうだ。

 その上で「百合がいたことも、起こったことも確かだ」と言い、あの江戸の大火事も現実に記録が残っているんだと教えてくれた。

  「悠理も転生してるはずだと信じて探してたから……まさかそんなふうだったなんて……なにが起こったのかはわからないけど、精神が飛んで、なんらかの作用で江戸で肉体を持っていたんだろうか」

  結局、俺が江戸で実在していた理由ははっきりはしないけど、事実であったことは間違いないんだ。

  「火事のあと、華屋はどうなったの?」

  「みんな無事だったけど、再建は難しくて旦那も女将も引退。歌舞伎座に上がれたのは柊と椿くらいだな。あとは散り散りばらばらでさ」

  女将に旦那……も……大変だっただろうけど、きっと持ち前の踏ん張りで頑張ったんだろうな。

「そっか。……あの、あと……その……」

  三百年前でも元カレだからというかなんというか。なんとなく言い難くて言葉が詰まった。

  楓は伏し目がちにくすっと笑う。
  「保科様、だろ。」
  俺は顔を赤くしてうなずいた。

  「保科様と百合が二人で火事から逃げたのは聞いた。けど、そのあと二人は消息を絶った。俺は勿論、百合が市山座に帰って来ると思って待っていたけど……大旦那様はどこか遠く、二人でひっそりと暮らしているんだろう、なんて笑ってらしたな。
 結局江戸は火事の始末に追われて、誰も行方不明者のことを追求したりはしなかったしな」

  「そっか……。俺達、あの火事で浅草まで逃げたんだけど、川に落ちちゃって離れ離れになって。で、目覚めたら俺は病院にいたんだ」


  結局、保科様のそのの行方はわからず、楓真も現代では会っていないと言っていた。

  もう少し話しをしていたかったけど、ドラマの撮影がある楓真はマネージャーが迎えに来て出ていった。
  でも、俺達はトークアプリのアドレスを交換して、近い再会を約束している。

  トークアプリなんて本当に現代的だな、なんて思ってしまうあたり、江戸に染まったよなあ。


  そして、このあとは入れ違いで部屋に来た事務所の人と一緒に、社長と専務など、事務所の関係者に挨拶に回って半日が過ぎた。
  社長が華屋の女将と同じ顔をしているのには絶句した。

  もう、楓真ってば。言っといてよ!
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