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ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎
Love situation 2
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楓の新しい目標は第二の人生に向けられていた。なにをしても誰にも文句を言われないくらいの地位を手に入れれば、百合を迎えに行けると信じて。
子供ができたことを伝えに行った時もそんな気持ちからだ。
まだ明かすことはできないけれど、百合をずっと愛しているから裏切りと思わないで欲しい。まだ強く抱き締めることは叶わないけれど、今は形を変えてはいるけれど、必ずそばにはいるからお前も早く舞台へ来い。
しかし、皮肉なことに、百合の中ではその日を機に楓とのことが良い思い出に変わった。そして再び忠彬にほのかな思いを寄せつつも新しい馴染み客がついて、しまいめには身請けの話まで進んでいる。
もちろん才能を開花させるのが目的ではあれ、百合を市山座に入れ自分のそばに置くつもりだったのに。
気持ちに弱い部分のある百合が、再び近くにいるようになった忠彬を慕うのはわかり切っていたから、恋心が募る前に連れ去るつもりだったのに。
あの時、百合は楓に言った。
「もし火事で俺と加留さん、子供が残されていたら誰を一番に助ける? 俺が欲しいのは最後まで俺の為にそばにいてくれる人だよ」と。
楓は身が引き裂かれる思いだった。
この頃にはやはり、市山一家に対する家族への情……父親としての責任感が育ってはいて「俺は百合を一番に助ける。ずっとそう思ってる」と瞬発的に言えなかったこともある。
ただ、それ以上に、百合自身もそれを楓に望んでいないことが、今の言葉でわかってしまったからだ。
百合が楓を送り出したのは、真実の愛があったからこそだと、少しも疑ってはいない。それでも、恐らく百合が最後までそばにいたい相手として奥底で望んでいたのは別の人だからできたのではないだろうか。
流されやすいと思ってばかりいた百合だが、宗光でも良いと偽る百合だが、心の奥底で求め続けているのはただ一人なのだ。
「お疲れ様でしたー」
撮影スタッフの声が明るく響く。
楓真がニコッと笑って頭を下げると、女性だけでなく男性スタッフもほぅ、と息を漏らした。
「本当に輝いていらっしゃいますよね。いつまでもアイドルでいて欲しいような、でも歌舞伎で輝く姿も見たいというか……」
機器を撤収するスタッフ達の声が耳に入った。
歌舞伎界には何年かに一人「歌舞伎界のプリンス」と謳われる者がいて、若いうちはメディアに多く出て、襲名が終わると歌舞伎一本に戻るのだが、楓真もあと十年のうちにはそうなるだろう──十ニ代目市山屋楓雅として。
そしてまた、名を継いで繋げて行くのだ。
(百合は自分は弱い人間だと言ったけど俺もそうだ。別れの時、百合に背中を押されてもなお、百合との道を選ぶ強さがあれば百合の気持ちを変えられたかもしれないのに。
でも……あの時、百合が背中を押してくれなければ、市山屋楓雅の名も市山屋も現世には残らなかった)
今となればどちらが良かったのかはわからない。でも、記憶を持ちながら現世に生まれてきたのは、きっと今度こそ百合と添い遂げる為だとずっと思ってきた。
────だから絶対に百合を見つける。願えば必ず叶うから────と。
***
「彬さんもずっとそう思ってたんですね」
予約した店の個室。話題が「永遠の約束」の曲の話になり、楓真はワインの入ったグラスを置いて彬を見た。
(なるほど、確かに保科様だ。「A」は学生だから顔も名前も出さないって言われてて、挨拶もしたことがないから気づかないはずだ)
「もってなんだ?」
彬が冷ややかに笑って、横目で楓真を見る。江戸時代では見せなかった表情だ。
悠理に聞いて驚いたのだが、彬は悠理に再会するまで江戸の記憶はなかったのだと言う。それでもこの詞を書いたのだから、潜在的にはずっと探し続けていたのだろう。
「なに~、二人とも見つめ合ってぇ。俺も会話に入れてよぉ」
間違えて酒のグラスに口をつけてしまったらしい二人の思い人は、グラグラと体を揺らしている。
「悠理、こっちへ」
彬は椅子を寄せ、悠理を自分の肩に寄りかからせた。楓真は今日何度目かの舌打ちをしたくなったが我慢した。
「でも驚きですね。大学院生で等々力の豪華マンションに一人で住んで音楽プロデュースなんて、現世でもチートなんだ」
彬の父親は貿易商だが、音楽家である妻を溺愛するあまりに彬にマンションを譲って、妻の公演先が海外だろうと僻地だろうと付いて周っている。
放任主義の両親は彬の日常生活も将来も全て彼に任せていて、何不自由なく好き勝手にできるのだから、確かに恵まれているなと彬は思う。
「でもそれは楓真もだろ」
「まあ」
否定せずに笑う唇はオレンジがかった赤で形がいい。陰間時代にその微笑みで多くの客を虜にした、そのままだ。
「二人とも凄いよなぁ。お金持ちで才色兼備。俺なんかこーんな平平凡凡でさぁ。なんだか二人に挟まれてると眩しすぎて自分が恥ずかしくなっちゃう」
突然に悠理が二人の手を引っ張りぼやき出した。
(俺には悠理が一番眩しいよ)
二人同時に思い、互いになにを考えているのかすぐにわかって、顔を見合わせた。
「……悠理がこんなんだし、今日はもう出るよ」
彬が悠理を胸に抱き寄せ、楓の手を握っていた手ごと奪い去る。
「わかりました」
空いた手をテーブルに付け、楓真が席から立つ。
見送りなら不要だと彬は断ろうとした。が、楓真は悠理の腰に片手を回して自分に寄せ、彬から悠里を引き離した。そして、耳元で囁き声を出す。
「悠理、またすぐに連絡するから。これから一緒に頑張ろうな」
「ん……? うん、またな」
悠理はふにゃりとした笑顔を見せて、楓真の腕に体を預けながら、彼の二の腕をぱんぱんと軽くはたいて返事をした。
次は彬だ。
このかわいい顔を見られてなるものか、とでも言いたげに悠里の頭と肩に手を添えて自分に向かせ、胸の中に取り戻すと、短く「じゃあ」とだけ告げて店をあとにした。
────やっぱり楓真は危険だ……そう思いながら。
店に残った楓真は一人、ワインを飲み干してグラスを空にすると、給仕に入った店員が見惚れるような色気を醸し出しつつ、長い足を組んで頬杖をついた。
悠理を奪えないことなどわかっている。
それでも……。
(もう後悔はしたくないから、俺は俺のやり方で悠理を愛しますよ、彬さん)
薄暗くもムーディーな店の個室。楓真は不敵に笑った。
Love situation end
子供ができたことを伝えに行った時もそんな気持ちからだ。
まだ明かすことはできないけれど、百合をずっと愛しているから裏切りと思わないで欲しい。まだ強く抱き締めることは叶わないけれど、今は形を変えてはいるけれど、必ずそばにはいるからお前も早く舞台へ来い。
しかし、皮肉なことに、百合の中ではその日を機に楓とのことが良い思い出に変わった。そして再び忠彬にほのかな思いを寄せつつも新しい馴染み客がついて、しまいめには身請けの話まで進んでいる。
もちろん才能を開花させるのが目的ではあれ、百合を市山座に入れ自分のそばに置くつもりだったのに。
気持ちに弱い部分のある百合が、再び近くにいるようになった忠彬を慕うのはわかり切っていたから、恋心が募る前に連れ去るつもりだったのに。
あの時、百合は楓に言った。
「もし火事で俺と加留さん、子供が残されていたら誰を一番に助ける? 俺が欲しいのは最後まで俺の為にそばにいてくれる人だよ」と。
楓は身が引き裂かれる思いだった。
この頃にはやはり、市山一家に対する家族への情……父親としての責任感が育ってはいて「俺は百合を一番に助ける。ずっとそう思ってる」と瞬発的に言えなかったこともある。
ただ、それ以上に、百合自身もそれを楓に望んでいないことが、今の言葉でわかってしまったからだ。
百合が楓を送り出したのは、真実の愛があったからこそだと、少しも疑ってはいない。それでも、恐らく百合が最後までそばにいたい相手として奥底で望んでいたのは別の人だからできたのではないだろうか。
流されやすいと思ってばかりいた百合だが、宗光でも良いと偽る百合だが、心の奥底で求め続けているのはただ一人なのだ。
「お疲れ様でしたー」
撮影スタッフの声が明るく響く。
楓真がニコッと笑って頭を下げると、女性だけでなく男性スタッフもほぅ、と息を漏らした。
「本当に輝いていらっしゃいますよね。いつまでもアイドルでいて欲しいような、でも歌舞伎で輝く姿も見たいというか……」
機器を撤収するスタッフ達の声が耳に入った。
歌舞伎界には何年かに一人「歌舞伎界のプリンス」と謳われる者がいて、若いうちはメディアに多く出て、襲名が終わると歌舞伎一本に戻るのだが、楓真もあと十年のうちにはそうなるだろう──十ニ代目市山屋楓雅として。
そしてまた、名を継いで繋げて行くのだ。
(百合は自分は弱い人間だと言ったけど俺もそうだ。別れの時、百合に背中を押されてもなお、百合との道を選ぶ強さがあれば百合の気持ちを変えられたかもしれないのに。
でも……あの時、百合が背中を押してくれなければ、市山屋楓雅の名も市山屋も現世には残らなかった)
今となればどちらが良かったのかはわからない。でも、記憶を持ちながら現世に生まれてきたのは、きっと今度こそ百合と添い遂げる為だとずっと思ってきた。
────だから絶対に百合を見つける。願えば必ず叶うから────と。
***
「彬さんもずっとそう思ってたんですね」
予約した店の個室。話題が「永遠の約束」の曲の話になり、楓真はワインの入ったグラスを置いて彬を見た。
(なるほど、確かに保科様だ。「A」は学生だから顔も名前も出さないって言われてて、挨拶もしたことがないから気づかないはずだ)
「もってなんだ?」
彬が冷ややかに笑って、横目で楓真を見る。江戸時代では見せなかった表情だ。
悠理に聞いて驚いたのだが、彬は悠理に再会するまで江戸の記憶はなかったのだと言う。それでもこの詞を書いたのだから、潜在的にはずっと探し続けていたのだろう。
「なに~、二人とも見つめ合ってぇ。俺も会話に入れてよぉ」
間違えて酒のグラスに口をつけてしまったらしい二人の思い人は、グラグラと体を揺らしている。
「悠理、こっちへ」
彬は椅子を寄せ、悠理を自分の肩に寄りかからせた。楓真は今日何度目かの舌打ちをしたくなったが我慢した。
「でも驚きですね。大学院生で等々力の豪華マンションに一人で住んで音楽プロデュースなんて、現世でもチートなんだ」
彬の父親は貿易商だが、音楽家である妻を溺愛するあまりに彬にマンションを譲って、妻の公演先が海外だろうと僻地だろうと付いて周っている。
放任主義の両親は彬の日常生活も将来も全て彼に任せていて、何不自由なく好き勝手にできるのだから、確かに恵まれているなと彬は思う。
「でもそれは楓真もだろ」
「まあ」
否定せずに笑う唇はオレンジがかった赤で形がいい。陰間時代にその微笑みで多くの客を虜にした、そのままだ。
「二人とも凄いよなぁ。お金持ちで才色兼備。俺なんかこーんな平平凡凡でさぁ。なんだか二人に挟まれてると眩しすぎて自分が恥ずかしくなっちゃう」
突然に悠理が二人の手を引っ張りぼやき出した。
(俺には悠理が一番眩しいよ)
二人同時に思い、互いになにを考えているのかすぐにわかって、顔を見合わせた。
「……悠理がこんなんだし、今日はもう出るよ」
彬が悠理を胸に抱き寄せ、楓の手を握っていた手ごと奪い去る。
「わかりました」
空いた手をテーブルに付け、楓真が席から立つ。
見送りなら不要だと彬は断ろうとした。が、楓真は悠理の腰に片手を回して自分に寄せ、彬から悠里を引き離した。そして、耳元で囁き声を出す。
「悠理、またすぐに連絡するから。これから一緒に頑張ろうな」
「ん……? うん、またな」
悠理はふにゃりとした笑顔を見せて、楓真の腕に体を預けながら、彼の二の腕をぱんぱんと軽くはたいて返事をした。
次は彬だ。
このかわいい顔を見られてなるものか、とでも言いたげに悠里の頭と肩に手を添えて自分に向かせ、胸の中に取り戻すと、短く「じゃあ」とだけ告げて店をあとにした。
────やっぱり楓真は危険だ……そう思いながら。
店に残った楓真は一人、ワインを飲み干してグラスを空にすると、給仕に入った店員が見惚れるような色気を醸し出しつつ、長い足を組んで頬杖をついた。
悠理を奪えないことなどわかっている。
それでも……。
(もう後悔はしたくないから、俺は俺のやり方で悠理を愛しますよ、彬さん)
薄暗くもムーディーな店の個室。楓真は不敵に笑った。
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