枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

文字の大きさ
132 / 149
ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎

Love to give you 3

しおりを挟む
  クランクインから早くも三ヶ月。映画の撮影は順調だ。ドラマの頃からの気心の知れた共演者にスタッフ。地方へのロケもない。通い慣れたスタジオは見世劇場「華屋」のように居心地が良かった。

「悠理、さっきの表情は良かったな。大人の演技もできるようになったじゃないか」
  ケータリングでの昼食時間、声をかけてきたのは大物俳優の権藤だ。
  権藤はごつい手のひらを悠理の丸い頭に乗せ、ワサワサと撫でる。

「権さん!」
 悠理は顔をくしゃっと綻ばせて顔を上げた。併せて権堂の表情も緩む。

  権堂は映画版からの参加だが、事件の鍵を握る重要な役どころで、強面の、引退した刑事役である彼の様相はカメラが回っていなくても物々しい雰囲気を帯びている。
  だが、楓真や、こと悠理の前では慈愛に満ちた「オッサン」のようになると、スタッフ達は遠巻きに見てこそこそと耳打ちし合っていた。

「権さんに褒められたら嬉しいよ。ねぇ、次の牽制し合うシーンなんだけとさ……」
「ああ、あれか……」
  二人は連れ立ってテーブルへと向かった。スタッフや他の共演者は、威厳のある大物俳優に敬語も使わず物怖じもしない悠理を未だに不思議そうに見ている。

「権藤さん、俺も邪魔していいですか?」
  二人のテーブルに遅れて入ったのは柳田楓真。権堂はトレイで両手が塞がった楓真の為に椅子を引いてやった。

  楓真も若手の中では権藤との距離は近いが敬語は守っている。権藤には江戸の記憶はないと知っているからだ。

  悠理からは権藤が「権さん」の魂を持っていることは確かだが、前世の心残りが心身に刻まれてはいても、それにまつわる江戸の記憶は持っておらず、自分との再会後に「権さん」は完全に昇華したと思う、と聞いている。

  楓真自身も、と再会する前から権藤との前世との関わりを感じてはいたが、権藤からはレゾナンス共鳴を感じなかった。フラワーアップエージェンシーの湯川社長然り、悠理が在籍していた菊川プロダクションの社長然りだ。
(江戸の記憶を持っている者と持たざる者の違いはなんなんだろう。それに……)

「どうした、楓真。俺の顔になにかついているか?」

「! すいません、権藤さん。やっぱり渋いな、と思って見惚れてました」
  権藤を見ながら考えに耽っていた楓真はニコッと笑顔を作った。

「まったく、お前は演技も上手いが口も上手いな……顔も良けりゃ才能もある。間違いなく若手のナンバーワンだな」
  そう言いながら頷く顔は「華屋の面々を得意げに眺める権さん」そのもので、楓真は懐かしさに目を細める。
 対して口を尖らせるのは悠理だ。
  
「権さん。楓真のことは手放しで褒めるよね。俺だって頑張ってるんだから、もっとちゃんと褒めてよ。俺も絶対芸能界でナンバーワンになるんだから」

「なに言ってやがる。ちゃんと評価してるだろう。けど、悠理はまだまだだな。そういうことを口に出すところが甘ちゃんの証拠だ。大人の振る舞いは演技の時だけだな。しっかりやりやがれ」

「ええ~?」

  江戸で良く見た光景に、さらなる懐かしさが湧き上がる。記憶がなくとも絆は受け継がれるものなのだと、楓真はやはり顔を綻ばせていた。

(ナンバーワン、か。百合は初めて会った時からずっと言ってるな)

  だから。
  だから楓真はずっと考えていた。百合とも悠理とも結ばれないのなら、自分が記憶を持って生まれ変わった意味はなにか、と。
 記憶を持たない者との違いはまだ良くはわからないけれど、自分は百合を幸せにしてやりたい。
  江戸でできなかった分、精一杯。

「……なぁ、悠理。この現場も、もう折り返しだ。これが終わったらお互い長丁場の撮影は入ってないよな? だからさ、やりたいことがあるんだけど」
  食事を終えてコーヒーで一息ついたところで、楓真が切り出す。

  目の前の悠理は「ん?」と目を開き、一緒に円卓に着いている権藤も楓真を見た。

「歌舞伎座の舞台、一緒に上がろう」


 ***


  歌舞伎座と言えば伝統と格式があり、認められた歌舞伎役者だけが立てる舞台だと思われがちだが、各月の公演の調整日や、毎年と言うわけではないが、例えば納涼歌舞伎などには特別に演目が設けられることがあり、旬の人気俳優や女優が客演者として舞台を踏むことがある。 
  楓真が言っているのはその特別公演だ。


「いや、でも……クランクアップしてから夏の歌舞伎舞台って……間に合わないって言うか……社長やマネージャーにも相談しないと……それより俺が歌舞伎舞台に? いや、無理だよ……」
  もう二年近く、歌舞伎から離れている。なにより、江戸の華屋でやっていたのは現代で言えば大衆演劇みたいなものだし、百合は本歌舞伎座に上がる前に現代に戻って姿を消している。

「社長にも座にも俺が話をつける。それに納涼歌舞伎は八月だ。大丈夫。四ヶ月近くあれば悠理ならできるって。俺が稽古も見るし」

「いや、でも……」
  
「悠理、良いじゃないか。俺も歌舞伎は好きで良く観に行かせてもらっているが、特別演目は新しい趣向も取り入れていて人気も高い。楓真の歌舞伎案内の番組も好評だし、今なら若い世代からも評判になるはずだ。芸能界でナンバーワンを目指すって言うんなら経験しておくべきだぞ」
  戸惑うばかりの悠理の背を押したのは権藤だ。悠理は二人の顔を見比べる。

(まるで、 に戻ったみたいだ。楓がいて、権さんがいて、二人が俺を勇気づけてくれる)                                                                             

「……うん……俺、できるかな?」

「……勿論だ! 悠理。夢。一緒に叶えよう」
  楓真が強く頷く。

(俺たち、今、同じことを考えてるんだ)
    悠理もまた、強く大きく頷いた。

 
しおりを挟む
感想 155

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...