枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎

Love to give you6

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   悠理が、新作チョコレートのコマーシャル撮影でたんまりもらったお土産を両手にマンションに戻ると、先に彬が帰宅していた。 

「彬さん!」
「悠理、おかえり」
「彬さんも」

  会話しながら互いの体は近づいて、言葉の最後にはすっかりハグをしている。
  ニ週間ぶりの彬の感触。広い胸にすっぽり包まれて、一瞬で充足感が満ちる。

「変わりなかった? 前に電話した時は少し様子が違ったからトラブルでもあったのかと思ったよ」

  鋭いな、と悠理はどきりとした。多分楓真関連だということもお見通しだろう。けれど、悠理は言い出せなかった。勿論、後ろめたさがある。理由はどうあれ、他の人と仕事以外でキスをしたのだ。

(でも、あれは浮わついた気持ちからじゃない。浮気なんか絶対しないし。だけど本気で、っことじゃない)
  自分でもわからないのだ。起こった事象だけを伝えるのは簡単だが、理由を説明できないから、話すと軽薄な告白にしかならない気がした。

「んーん。俺、は、なにも変わらないから大丈夫。彬さん、大好き……」
  悠理は彬の胸にぎゆっとしがみついた。自分が欲しい暖かさは間違いなくここにある。気持ちに偽りはない。

「……そっか……悠理、俺も好きだよ。会いたかった」
  彬も追及はしない。代わりに悠理の頭の天辺に唇を落とし、こめかみヘ移る。悠理が顔を上げれば、眉間、鼻筋、そして唇へと移った。

  ちゅ、ちゅ、と水音が立つ。すぐに唇が開いて口内に暖かさが伝わった。抱きしめられて、より深い部分を舌が撫でる。
  二人はそのまま床へと体を落とし、互いの熱を開放した。


  
  翌日は日曜日で、彬は休みのはずだが、悠理が目覚めると既に姿はなかった。
  スマートフォンにメッセージが入っていて「人に会う用事ができたからごめん。食事は冷蔵庫に……」と、諸々の連絡が共に連らなっている。
  悠理は十一時からの仕事で時間に余裕があった為、彬とゆっくり過ごせると思っていた当てが外れてしゅんと萎れた。

(彬さんも忙しいな。でも、一緒に暮らせてるだけマシだよな)

  メッセージの最後に「稽古が終わったら迎えに行くからね」とあり、それを見て気持ちに折り合いをつける。忙しい中でもこうして時間を作ってくれているのだ。萎れてばかりもいられない。
  そして、もう二度と彬に言えないことをしないようにしよう……悠理はうん、と頷いて冷蔵庫を開け、彬が用意してくれた、大好物のエビとアボカドが挟まったサンドイッチを頬張った。


 ***


  悠理と楓真、二人揃ってスケジュールが早く消化できて、今日の稽古は二十一時過ぎからの開始となった。
  楓真は元より、悠理の勘の戻りも早かった為稽古は順調に進み、明日には台本に沿っての演技に入れそうだった。

「なぁ、悠理。頼みがあるんだけど」
 休憩時間、以前よりは少しだけ悠理とのスペースを開けて座っている楓真が切り出す。

「頼み?」

「うん。今回の舞台の役名なんだけどさ、〈野菊〉を〈百合〉に変えたいんだ。それと、魔手には名前はないけど、できたら舞台が終わるまでは稽古中も俺の名を〈楓〉って呼んで欲しいし、悠理のことも〈百合〉って呼びたい」

  百合、楓……。
  悠理は返事に詰まった。別に現代風の名前ではないから、役名としては充分使えるが意図を深読みしてしまう。

「なんで……?」
  神妙な面持ちになる悠理とは反対に、楓真はふっと口角を上げて軽く笑った。

「言ったじゃん。の夢を叶えるんだって。それは百合と楓の約束ってことだ……それに俺はさ、この先も歌舞伎役者としてやって行くけど、悠理は違うだろ? 望めば協力はするけど、歌舞伎座の舞台に立つのは最初で最後かもしれない。だから……歌舞伎に関わった楓と百合の名を、作品の中だけにでも残したいんだ」

  最後には歌舞伎を熱く語る楓の顔になっていた。
  あの頃の夢は……歌舞伎座でナンバーワンになると言う夢は百合と楓のもの。悠理と楓真は同じ芸能界でも目指すところが違ってくる。あと十年もしないうちに、楓真はテレビ番組への露出は減り、歌舞伎界に身を投じて行くだろう。この先、鏑木悠理と柳田楓真の夢を叶える先は離れて行くのだ。

「……わかった。楓。頑張ろう」
    舞台初日まで残り四ヶ月。楓真と過ごす間は百合として。
  悠理は決意新たに頷いた。




  六月

  事務所からの調整が入り、一日のほとんどを舞台稽古に費やせるようになった。稽古場には他の役者も入り、唄や三味線、鳴り物を合わせる日もある。楓と百合の記憶を基にして再現した衣装の用意も進んでいた。
  踊り子役の素朴な舞台衣装に、舞台後の挨拶やテレビ局の取材時に着用する花魁様式の金襴緞子に俎板帯。全てが懐かしい。褥で使う陰間用の緋襦袢がないのが物足りないくらいだ。

  は衣装を自分に合わせてみるだけでなく、の肩にもかけたりして、久しぶりの「大華・楓」の姿に思わずにやけて、楓に小突かれた。

  残るは小物の調整。二人は椅子を並べて魔手とバックダンサーが着用する面について記憶を遡らせる。
「あれ、でもこの仮面の顔ってこうだっけ。眉って細くなかった?」
  楓が図案を見て言えば、百合が「鬼だよ? 太くてバッサバサの毛がついてたでしょ?」と答えるが、最後には二人して頭を捻って、折衷案に落ち着くことにした。

「うーん。なんだか細かい所は記憶が抜けてるんだよな」

「仕方ないよ。二年前に現実だった俺でもそうなんだ。楓はなんと言っても転生なんだし、まさに三百年前の記憶……おじいちゃんどころの話じゃないじゃん」

「百合、失礼だな。なら百合のほうがお若いんだからしっかり頼むよ。百合が物覚えが悪いのは、遥か江戸の昔からわかってるけどさ」

「はぁ? 嫌味なところは変わんないなぁ。うちの大華は」

  聞こえてくる二人の会話はおかしな部分がいくつもあるが、周囲は才能ある若者の遊びの一環だろうと、さして気に留めていない。だから二人は声を落とすこともなく会話を続けた。

「でもさ、こうやって小さい部分の記憶が抜けていたりで、いつかはそれが増えて行くのかな。現世の幼い頃の記憶がなんとなくぼんやりして行くみたいに、江戸の記憶も薄れて行くのか……記憶を持つ者と持たない者がいるのも不思議なんだよな」
  楓真は、以前権藤を前にして頭に浮かんだ疑問を口にした。

「うーん……菊川社長や湯島社長もそうだよね。夫婦だったのに今じゃ全然関わりがないもんな。権さんも特殊な感じだったし。俺にとっては前世じゃないから、楓や彬さんとはまた違うし」

  前世の記憶として持っていない悠理にはなにもわからない。
(でも……例えば突然記憶が消えて全て忘れたとしたら、彬さんとはその時どうなるんだろう……)
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