枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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ᒪove Stories 〈第二幕〉 ほぼ❁✿✾ ✾✿❁︎

Love to give you5

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 マンションに帰り着くと、悠理は上着も荷物も取らずにソファーに突っ伏した。
  稽古で体力が削がれた為もあるが、気持ちが大きく沈んでいた。

  後悔、自責。なぜあんなことを……。
  指が自然に口元に動いた。楓真と重ねた唇に、まだ感触が残っているような気がする。

  楓にはもう気持ちは残っていない。もちろん楓真に対しての恋愛感情もない。でも、それでも、ごく自然に唇を求めていた。絡まり合った指が暖かくて、心が江戸時代に飛んでいた。時間が巻き戻って「華屋怪奇奇談」の稽古を始めた時期の二人になっていたとしか言えない。

  (あの頃、俺は本当に楓が好きで……)
  でも、結局別れを選んだ。辛くて悲しくて苦しくて、気が狂いそうになる毎日に耐えた。
  最終的には乗り越えて、今の幸せに繋がった。それでも、楓とのことを思い出せば、胸の端でちりりと小さな火が灯る。
 
(でも、それは、俺には一つ一つが大事な思い出だから……)
  楓と思い合っていた時期も、宗光と契約していた時期も、いつもどこかに忠彬との思い出があって胸を切なくしたように、経験してきたことを綺麗さっぱり忘れるなんてできない。今の自分があるのは、あの頃の日々の積み重ねなのだ。

「……でも、彬さん。ごめんね。誰にもれないって約束、破っちゃった……」
 悠理はのっそりと起き上がり、バスルームへと向かった。綺麗に体を洗い、唇も擦る。

  バスタオルで体を拭いたら二人の寝室に入り、クローゼットの中の衣装ケースから彬のパジャマを取り出し身に纏った。柔軟剤の香りの奥に、微かな彬の匂いがして、悠理はたっぷりとその匂いを嗅いだ。

  ベッドに入り、彬の枕に顔を埋める。彬が出る朝にカバーは変えたから、これにもほとんど彬の匂いはないが、それでも安心できた。

「彬さん、早く帰ってきて……」
  悠理は彬の顔を浮かべながら、瞼を閉じて静かな寝息を立てた。


 ***


 有り難いことに相変わらず日々は忙しくて、今週はオフがない。今日は映画の初日舞台挨拶だ。
  朝から午後過ぎまでは情報番組のエンターテイメントコーナーに宣伝で顔を出し、十八時には映画館に入る。
  終われば楓真は音楽番組の収録へ、悠理はチョコレートのコマーシャル撮影があった。

 悠理と楓真は移動の車もほとんど同じで、悠理は少しばかり身が落ち着かないのだが、楓真は何事もなかったかのようにいつも通りだった。

(あんな顔、してたけど……俺の気のせいだったのかな……でも、本当に気が昂ぶっていただけならその方がいい。俺達はこれからも親友でいられる)

  ちらりと横目で楓真を見る。今日のヘアメイクとキラキラしたスーツも良く似合っている。

「スケベ」
「へっ」
「さっきから俺の顔、チラチラ覗き見して。ま、見惚れる気持ちはわかるけどな」
  色のある笑みを浮かべてウィンクする楓真。気障ったらしいはずの仕草なのに、楓真がやるとスクリーンの中の王子様みたいだから不思議だ。

「はいはい……カッコいいですよ。ほんとに楓真はカッコいいです」
  全面降伏だ。トップアイドルで歌舞伎界のプリンス。ファンは多数。数は公表されていないが、sakusi-doファンクラブの柳田楓真ファンは群を抜いているし、プレゼントやファンレターの数は半端ない。今までゴシップはないが、それなりに付き合いのある女性もいるだろうし、将来は由緒ある家の女性と結婚して梨園を盛り立てていくのだろう───加留さんとそうしたように。

 もう悲しくはないけれど、あの頃痛めた胸に手を当てる。やはり最近、どうも江戸時代に思いを馳せてしまいやすくなっている。
(やっぱり稽古してるせいでアドレナリンが出てんのかな)

「悠理?」
 黙り込んだ悠理を楓真が気遣う。瞳が優しい。
 いつでも……幸せに過ごした日々も、それからも、そして現代でも、楓真はいつも悠理を気遣ってくれているんだとふと実感した。
  
(形はどうあれ、楓真は俺を大切に思ってくれてる。楓真も、江戸でのことを大事に覚えてくれてるのかな。俺と同じに、一つ一つが大切な思い出で糧なのかな……)

「なんでもない。ねぇ、楓真」
「ん?」
「……いつも、ありがと。楓真が今もそばにいてくれること、本当に嬉しい」

  突然の言葉に面食らった楓真は悠理の顔をまじまじと見てしまう。悠理は仔猫が喉を鳴らして甘える時みたいに目を細めて笑った。の、好きだった表情だ。

「……うん」
  後部座席に隣同士で座っていた楓真は姿勢をずらし、側頭部を悠理の同じ場所に当てる。

「……なぁ、悠理。舞台、絶対に成功させような」

「うん。ふたりでナンバーワン、取ろうね」

  言って、うんうん、と顔を上下して、悠里は頭で楓真の側頭部を撫でる。
  楓真は、このあいだキスした時よりも、もっともっと泣きたくなる気持ちを目を閉じて抑えた。でも、それは悲しかったからじゃない。上手く表現できないが、胸の中を暖かいものが巡っていたのだ。

  ──やっぱり、百合と巡り会えて良かった。俺は俺ができるやり方で百合にも悠里にも幸せをあげたい……。


***


  映画の宣伝、舞台挨拶は大好評に終わった。
  楓真はスーツの上着を脱いでマネージャーに預け、次の移動へ気持ちを切り替える。

「楓真、行ってらっしゃい。俺、撮影が終わったら連絡するね」
  今日も深夜は舞台の稽古のつもりで、悠理はドアへ向かった楓真に声をかける。

「あー。いや、今日はなしにしよう」

「なんで? 楓真の方、時間かかりそう?」

「いや、じゃないけど……悠理、今日は彬さんが戻る日だろ。久しぶりなんだからゆっくりしろよ。じゃ、な」
  急いでいる為もあり、早口で言って去ってしまう楓真に返事は間に合わなかった。

(え、なんで楓真が彬さんのこと知ってるんだ??)
 出張も、そのスケジュールも伝えてはいないのに……首を傾げつつ、有り難い申し出を受けることにして、悠理も撮影へと向かった。

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