枕営業から逃げたら江戸にいました。陰間茶屋でナンバー1目指します。

カミヤルイ

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ミックス番外編SS集(なんでも許せる方むけ)

牡丹に蝶 6

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 それから約一年。

 半年前に既に退職届けを提出している俺に残る大きな案件は、S&G社との仕事だけ。商品完成やその流通は目処がつき、残るは広報関連のみ。
 俺は営業だから広報の仕事に直接的には関わらないが、今回は初めてメディア向けのPRに人気の俳優を起用したからと、アドバタイジングコマーシャルの撮影に誘われ同行していた。

 とは言え現代の俺は芸能界に興味はない。芸事は二個前の前世でやり尽くしたからね。だからテレビも見ないし、俳優や女優の名前も顔も、全くと言っていいほど知らない。
 それでも二つ返事で来たのは……。

「七緒さん!」

「前島さん、お疲れさまです」

 二時間ぶりの恋人の顔が見たかったからだ。
 俺達は三ヶ月ほど前から一緒に暮らし始めたからいつも顔を突き合わせてる。けど、仕事で合うとやっぱり新鮮なんだよね。
 そのスーツひん剥いて、逞しい腹筋でも舐めてやりたくなるよ。

「そんな目で見たら襲っちゃうよ」
 
 耳元で囁かれてうなじがぞくり。
 前島も俺と同類だな。いいカップリングだと思わない?

 冗談はさておき、用語を戻して真面目に絵コンテを含む資料を確認する。

「起用した俳優、今大人気ですよね。七緒さんはご存じ……ないですよね……」

「はは。そう、芸能関係の方には明るくなくて……鏑木、悠理?」

 資料に書かれた名前を目で追い、次にある俳優プロモーションページをめくって息を忘れた。

 ──百合!?

 共に過ごした頃より大人びているけれど、華家に来たばかりの頃と同じ、短い茶色の髪で微笑んでいるのは間違いなく……。

「鏑木悠理さん、入られまーす」

 ディレクターの声が響き、スタッフの拍手に導かれて入ってきたのは、やはり「百合」だ。

 百合は変わらない人懐っこい笑顔を振りまいて、全員に頭を下げていく。そして、最後にスタジオの隅の機材に隠れていた俺達二人に視線を向けて、体を硬直させた。

「……ぷっ」
「七緒さん?」

 吹き出した俺を、前島が不思議がる。
 笑われたとわかった百合は、水をかけられてびっくりした猫みたいな顔をきりり、と戻した。

 ああ、見世舞台に上がるときの顔だ。今から「舞台」だもんな。仕事の時のお前の切り替えの良さ、俺はよく知ってるよ。しっかり気張ってきな。


***


「牡丹までまさか現代ここにいたなんて。しかも記憶が残ってるなんて」

 撮影のあと、わずかな時間しか取れなかったが百合と話した。
 百合は現在二十三歳で、人気・実力共に確立している若手俳優のようだ。

「俺まで? 他にもいるわけ?」
「ふぇ!? 待ってよ牡丹、柳田楓真とか権堂雄吾を知らないの?」
「なにを待つんだよ。お前、前からだけど日本語がおかしいねぇ」

 百合の百合さに「牡丹」が出てきてしまう。俺はキセルを吹いてた頃みたいに、ため息混じりに煙草をふかした。

 それにしても、楓や権さん、女将に旦那さん。そして保科の若旦那様もこの時代に……百合は現在、若様の生まれ変わりと暮らしていると言うし。
 可哀想に、結局楓は、何回転生しようとも百合とは結ばれない運命にあるのかねぇ。でも……そうなんだ。皆、今は前世の記憶は無いんだね。なら、なぜ俺達はひとところに集まるんだろう。人間の縁てやつは時代や形が変わっても切れないものなのか? それが「永遠」ってこと?


「ねぇ、牡丹。また、ゆっくり会えない? 俺、スケジュールが空き次第連絡するから連絡先を……牡丹、煙草の灰が落ちるっ」

 百合が急いで灰皿を寄せてくれる。

「ああ、済まない。ぼんやりしてた」

「牡丹がぼんやりなんて、珍しいね。牡丹はいっつも隙がなくてさ。あ、ちゃっかりしてるって言うのかな」
 
 あれから三百年の時が経っているのに、俺を「牡丹」として見て嬉しそうに言いながら、丸い目を細くして笑う。お客達も陰間仲間も、それから旦那に、あの鬼女将でさえも皆、百合の後ろ暗さの無い、この無邪気な笑顔に魅了されていた。変わらないね、百合。

「……なぁ、お前、みんなの記憶が消えて、寂しかったんだろ」

 吸い終わった煙草を灰皿に置いて、百合の額をつついてやる。そうしたら百合、うぅ、と唸った。
 あれ? ちょっと泣きそう?

「ぷっ。ほんとお前、転生しても変わんないね。寂しがり屋の甘ったれ。泣き虫百合」
「う、うるさい! 牡丹だって意地悪言うの、変わらないじゃん。それに俺は転生したわけじゃ……」
「悠理、そろそろ時間だぞ!」

 百合が全て言い切る前に、マネージャーの男の声がかぶった。百合は名残惜しそうに俺とマネージャーを見比べる。

「ほら、行きな。仕事だよ。大丈夫。また話し相手になってやるから」

「ほんと!? ほんとにほんと!?」

 全く……これで本当に人気俳優なのかい? 二十三にもなって、まだまだ子供みたいじゃないか。これは若様に甘やかされまくってると踏んだ。

「ほんとだよ、ほら。名刺持って行きな。ああ、新しい方をあげるよ」 

 手渡すと、百合は途端に顔を綻ばせる。
「わぁ、牡丹に蝶のモチーフがついてる。牡丹にぴったりだね。じゃあ、すぐに連絡するからね!」

 そう言って、百合は次の仕事へと向かって行った。



「牡丹に蝶、ね……」
 俺も改めて、じきに使い始めることになる新しい名刺を見る。

 この名刺に描かれている、牡丹の花に蝶がとまるマークは、前島が引き継ぐ会社……まさか前島が有名な商社グループの会長の孫の一人とは知らなかったが……つまりは俺の次の就職先の企業ロゴだ。
 
 こんな珍しいの、俺も初めて見たよ。でも……俺はとても嬉しかった。おそらく、前島とは前世では関わりが無かった。が、前島が背負うことになる会社のシンボルマークが偶然にも「牡丹」だなんて。
 なんの因果かわからないけれど、これも巡り合わせのようなものなのか。

 ────私達の一切は因果で決まっているんだよ

 ああ、若様が良くおっしゃっていたっけ。
 変わらないもの、変わるもの。繋がっていく人の縁。新しく繋がる人の縁。二律背反のようで、全て同じ線上に在り、今の行為があとの運命を作っていくのだと。

 それならば、ここを起点として、俺と前島も「永遠」になれるのだろうか。

 今まで俺は、愛も永遠も信じてこなかった。けれど、振り返ってみれば、一個体の人生はそうは長くない。だから、この人生でくらい、信じてみてもいいんじゃない?

 ──そう、まずは百合と保科の若様の現在いまの話を聞きながら、永遠の愛ってやつをご教示頂いて。

 「七緒」から「前島」に姓が変わった新しい名刺を名刺入れに戻し、スーツの内ポケットに収め、俺も社へと戻るのだった。




  


      牡丹に蝶 終

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感想 155

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みんなの感想(155件)

Mimi
2022.09.05 Mimi
ネタバレ含む
2022.09.05 カミヤルイ

Mimiさま
この度はたくさんの作品の中から、しかも完結より随分時間の経つこちらを開いて頂きありがとうございます。
作者、感涙に咽び泣きました。
なかなかラブに至らないどころか攻めが影も形も出てこない前半で、何を読んでいるんだろうと投げださずに読破頂けたこと、そして、悠理を応援し続けて下さったこと、本当に嬉しいです。
そして、何より「感想」と言う形でお気持ちを残して下さったこと。これがこれからの意欲にも繋がり、励まされました。
ありがとうございました☺

解除
たみゅ
2022.01.16 たみゅ

昨日リンクを辿るうちにこちらへ流れ着きました。
人物や背景描写が緻密で本当に引き込まれてしまい、こんなの無料で読めていいのかな、と思いながら一気に読んでしまいました。
連載中だったら続きが気になりすぎて仕方がなかったろうなと(笑)
素敵なお話をありがとうございました。

2022.01.16 カミヤルイ

たみゅさま
この度はこちらの作品をお読み下さりありがとうございました。
リンクを辿って来て下さったとは……なんとも嬉しく、また、感想のお言葉も勿体無いほどのお褒めを頂き、幸せいっぱいです。
最初の相手と出会うまでが長く、連載ではそのあたりで離れる方も多かった作品です。良くぞ最後まで辿り着いて下さいました✨お好みの相手とくっついていたでしょうか☺
感想、本当にありがとうございました。

解除
2021.11.28 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.11.28 カミヤルイ

kotaさま
嬉しい感想をありがとうございます!
ご自身の執筆やコンテスト参加でお忙しい中、この長い文章におつきあい下さりありがとうございました。陰間の期間が三年しかなかった為、急ぎ足でしたが最後納得頂けて良かった✨資料集めの際、司書さんに向けられた眼差しへの恥ずかしさが薄まりました(笑)

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