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事故つがいの夫は僕を愛さない
夫の告白 ③
しおりを挟む「でもね、天音……俺はあの日、ラットにはなっていなかったんだ」
「……どういうこと? 運命のつがいとそうじゃないオメガとは、やっぱり違うってこと?」
理人の気持ちを知ることができたのに、やっぱり運命には太刀打ちできないのかと、みぞおちあたりがズン、と重くなる。
「そうじゃない。俺は学生時代、親からアルファとしての義務を厳しく躾けられていて、毎日ラット化抑制剤をちゃんと飲んで防衛していたんだ。それでも、好きな子のフェロモンを浴びるとクラクラし始めて、やばいって思った。だから理性があるうちに駅員さんに天音を託していったん離れようとした。でも……」
理人が言い淀む。
続きが気になる僕は、目で「話してほしい」と訴えて待った。
理人は気持ちを決めるように一度瞼を伏せて開くと、言いにくそうでも続きを話し始める。
「天音が、"行かないで"、"欲しいんだ"、って、潤んだ目で俺の腕にすがりついて言ったんだ。その瞬間、俺の頭の中でなにかがはじけた。こんな顔を他の誰にも見せたくない。他のアルファに奪われたくないって思った。ヒートを起こした天音が求めてるのは俺じゃなくて、単にアルファ性なんだとわかっていても、それは俺であって欲しいと思った。だから俺、あのときは確かにヒートに当てられてはいたけど、まだ自我は失くしていなかったのに、助けを呼ぶのをやめた」
それから、駅のトイレの中。
理人は自分の意思が残っている中で僕のズボンを下ろした。
行為に及べば途中で止められず、うなじを咬んでしまうだろうとわかっていて。
中学生の僕たちがつがいになるとはどういうことか。それもわかっていて僕の中に入り、つがいのしるしを刻んだ────
僕が入院した病院で、僕が目覚めるのを待っていた間に、理人は両親に自分の意思だったと話した。
また、高校を卒業したら僕と結婚して責任を取りたいと告げ、僕の両親に何度も頭を下げた。
そして……アルバイトができる学校への進学を決め、僕と生活するためのお金を貯める日々に没入していった。
「どうなるかわかってて咬んだなんて、最低だ。俺の天音とのつがい生活は、贖罪から始まった。でもだからこそ、天音を絶対幸せにするんだって誓っていた。アルファに襲われて対人恐怖症になった天音を俺が守るんだって……でも、その気持ちがどんどん膨らんで、天音を自分だけのものにしたいと、誰の目にも触れさせたくないとまで思うようになった。これもアルファの性だって聞きもするけど、つがいへの執着心が日ごとに増していくんだ。俺、天音を家に閉じこめて、狂ったみたいに連絡を入れたよね……自分でも自分が怖かった」
僕に通信制の高校を勧めたのも、結婚してからも僕が一日をどう過ごしていたかをこと細かく聞いたのも、僕への執着心からだったと謝る。
「そんな……」
どれもこれも想像にも及ばなかった事実にそれ以上の言葉を失う。けれど理人を責める気持ちには少しもなれない。
元はと言えば、やっぱり僕がオメガで、ヒートを起こしたから起こったことだ。
僕がオメガじゃなければ、僕がヒートを起こさなければと、何度もそう思った。そして、そう思うのに理人につがってもらえたことが嬉しくて、結婚できる日を心待ちにした。
理人がこまめに連絡を入れてくれるのが嬉しくて、声を聞かせてほしさにわざとメッセージに既読をつけないことも多かった。
今だって、理人がオメガのヒートに当てられたからじゃなく、自分の意思でつがいになったと言ってくれたくれたことに、喜びを感じてしまっている。
理人はちゃんと僕を選んでくれたんだ。執着するほど愛してくれているんだ、と。
けれど理人は、どこまでも僕が理人に怯えているように見えたと、僕が理人と距離を置きたがっていると感じていたんだと話す。
「随分怖がらせたよね……天音から返事を送ってくれる回数も、既読さえも少しずつ減ってきていた。それなのに、俺がとうとう確認の電話までしたり、一日なにをしていたんだと問い詰めるから、余計に怯えて俺に気を遣うようになった。慣れない家事に懸命になって、俺の機嫌を窺って……働きたかったのも家計のためだけじゃなく、俺の執着から逃げたかったんだろう?」
「ち、違うよ、どれも違う! あれは、あれはね」
なにからどう伝えたらいいのか。もつれた糸のようにこんがらがりすぎて、どこから正せばいいのかわからない。
つがいになってほしかったのは僕の方だよって。
あのころは理人がまぶしすぎて、うまく会話ができなかっただけなんだよって。
僕のつがいになったために、罪悪感を感じて頑張ってくれている理人に対して、なにもできない自分が嫌だったからだよって……。
頭を振ってから、とにかく思いつくことから言おうと口を開こうとすると、理人も頭を緩く振った。
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