83 / 92
専務、その溺愛はハラスメントです
⑨
しおりを挟む
東京の屋敷に戻り、入浴を済ませたあとは千尋の傷の手当の時間だ。
「首、痛くして、本当にごめんね」
深く刻印が刻まれたうなじにガーゼを貼りながら、光也は心から悔いるように言った。
「謝らないでよ、凄く嬉しいんだから。それにあのときのみっくん、素敵だったよ?」
番になった夜、光也の射精は丸一日続き、千尋は夢と現実うつつの間を数度行き来した。
光也の部屋の天窓はシャッターが閉じていなかったため、日が落ちるまでは光也の姿を目に映すことができた。
千尋にはときどき光也が獰猛なライオンに見え、捕食されている錯覚を起こしていた。
うなじだけでなく、体のあちこちに噛みつかれていたからだ。
千尋の体には、しばらく消えそうにないたくさんの歯型と紅い吸い痕が、そこかしこに刻みつけられている。
「素敵って……千尋にこんな酷いマーキングするなんて二度と嫌だよ。犬歯も削ろうかなと思ってる」
「だから~僕はこういうの大歓迎だってば! 痛ければ痛いほど、傷の治りが悪ければ悪いほど、みっくんから愛されてる! って思えるし」
(だって、傷はみっくんが本能でぶつかってくれた証だから)
千尋はそれが本当に嬉しくてたまらない。全身に愛された痕があるのは自分で見てもとても魅惑的だ。
通っていたマゾヒストクラブに貼ってあった宣伝用ポスターに、今の千尋と同じような痕をつけている男性の画があった。あれをうっとりと見ていた過去を思い出す。
「だーめ。もうしない」
「え~~?」
「そのためには俺も、ラットになる自分をコントロールできるようにならないとね。でも覚悟して。ハンドカフスもなくなったから、代わりに俺のしつこーいくらいの甘さの愛情で縛ってあげる」
光也の目が艶めかしくなり、力を込めた手でぎゅっと手首を握られる。
千尋はきゅん、と胸を弾ませた。
「愛情の、鎖……」
「そう。もう玩具おもちゃの鎖も……千尋の自由を奪う鎖も必要ない。俺達は番になった。決して離れない強固な鎖で繋がっているんだから」
「……うん! そうだね。僕たちは切れない鎖を持っているんだね!」
千尋は笑顔の花を咲かせて光也に抱きついた。光也もすぐに腕を回してくれる。
"自由を奪う鎖"
千尋にはこの言葉の意味がわかる。光也は知ってくれているのだ。祖父の鎖から解き放たれたように見えても、まだどこかで積年した彼の仕打ちが千尋の心に錆を残していることを。
ふとしたときに思い出し、その錆の味を思い出して顔を歪めていることを。
でも、もう大丈夫。新しい鎖を手に入れ、光也の家族の一員として迎えられた千尋には予感がある。
おそらく数年のうちに、抱きしめ合う自分たちの真ん中に新しい命が存在していて、二人の繋がりから産まれたその命に愛情を注ぐとき、虐げることが愛情ではなく、そのままの存在を慈しみ、輝く笑顔を守ることが愛情だと、自信を持って言う自分がいるだろうと。
「首、痛くして、本当にごめんね」
深く刻印が刻まれたうなじにガーゼを貼りながら、光也は心から悔いるように言った。
「謝らないでよ、凄く嬉しいんだから。それにあのときのみっくん、素敵だったよ?」
番になった夜、光也の射精は丸一日続き、千尋は夢と現実うつつの間を数度行き来した。
光也の部屋の天窓はシャッターが閉じていなかったため、日が落ちるまでは光也の姿を目に映すことができた。
千尋にはときどき光也が獰猛なライオンに見え、捕食されている錯覚を起こしていた。
うなじだけでなく、体のあちこちに噛みつかれていたからだ。
千尋の体には、しばらく消えそうにないたくさんの歯型と紅い吸い痕が、そこかしこに刻みつけられている。
「素敵って……千尋にこんな酷いマーキングするなんて二度と嫌だよ。犬歯も削ろうかなと思ってる」
「だから~僕はこういうの大歓迎だってば! 痛ければ痛いほど、傷の治りが悪ければ悪いほど、みっくんから愛されてる! って思えるし」
(だって、傷はみっくんが本能でぶつかってくれた証だから)
千尋はそれが本当に嬉しくてたまらない。全身に愛された痕があるのは自分で見てもとても魅惑的だ。
通っていたマゾヒストクラブに貼ってあった宣伝用ポスターに、今の千尋と同じような痕をつけている男性の画があった。あれをうっとりと見ていた過去を思い出す。
「だーめ。もうしない」
「え~~?」
「そのためには俺も、ラットになる自分をコントロールできるようにならないとね。でも覚悟して。ハンドカフスもなくなったから、代わりに俺のしつこーいくらいの甘さの愛情で縛ってあげる」
光也の目が艶めかしくなり、力を込めた手でぎゅっと手首を握られる。
千尋はきゅん、と胸を弾ませた。
「愛情の、鎖……」
「そう。もう玩具おもちゃの鎖も……千尋の自由を奪う鎖も必要ない。俺達は番になった。決して離れない強固な鎖で繋がっているんだから」
「……うん! そうだね。僕たちは切れない鎖を持っているんだね!」
千尋は笑顔の花を咲かせて光也に抱きついた。光也もすぐに腕を回してくれる。
"自由を奪う鎖"
千尋にはこの言葉の意味がわかる。光也は知ってくれているのだ。祖父の鎖から解き放たれたように見えても、まだどこかで積年した彼の仕打ちが千尋の心に錆を残していることを。
ふとしたときに思い出し、その錆の味を思い出して顔を歪めていることを。
でも、もう大丈夫。新しい鎖を手に入れ、光也の家族の一員として迎えられた千尋には予感がある。
おそらく数年のうちに、抱きしめ合う自分たちの真ん中に新しい命が存在していて、二人の繋がりから産まれたその命に愛情を注ぐとき、虐げることが愛情ではなく、そのままの存在を慈しみ、輝く笑顔を守ることが愛情だと、自信を持って言う自分がいるだろうと。
63
あなたにおすすめの小説
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
人気者の幼馴染が俺の番
蒸しケーキ
BL
佐伯淳太は、中学生の時、自分がオメガだと判明するが、ある日幼馴染である成瀬恭弥はオメガが苦手という事実を耳にしてしまう。そこから淳太は恭弥と距離を置き始めるが、実は恭弥は淳太のことがずっと好きで、、、
※「二人で過ごす発情期の話」の二人が高校生のときのお話です。どちらから読んでも問題なくお読みいただけます。二人のことが書きたくなったのでだらだらと書いていきます。お付き合い頂けましたら幸いです。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる