俺のご主人様がこんなに優しいわけがない

及川まゆら

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奴隷島

王様と青いすみれ

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 青嵐の帰国パーティーと称した乱交三昧の現場に…
 俺は羽根の付いた仮面をつけた招かれざる客。皆、声を潜めながら避ける。
 細いシャンパングラスを受け取るがすぐ円卓に置いて腕組み、視線を落とす。

 高い所に整列した、青の一門。

 青輝丸が愛想笑いで手を振ると、奴隷たちは歓喜の余り拍手を送ることさえもできず号泣。きっと自分に笑みをくれたと勘違いが起きているに違いない殺戮の大天使。
 続いて、青嵐の挨拶を聞きながらここから逃げる算段をつけている俺は会場の外に用意されたバルコニーにキャンドルが灯るのを見つめていた。安らぎにも似た灯り、本能的に引き寄せられ燈色へと導かれる俺はいつの間にか外に出ていた。

 ただ飾られる為だけに
 丁寧に育てられた大輪の百合が、夜風に揺れる。

 通り過ぎる俺を見送るボーイが、暗い空を仰ぐ。俺もまた眺めていた。
 空に轟くプロペラ音が次第に近づいてくる。
 ここからでも見える、あれは…
 ヘリから伸びる長い梯子に掴まる青魄そうはくこと、科戸忠興しなとただおきの華麗なる登場に大きく手を振る。




 「君に会いたくて脱獄してきたよ
 少々、殺し過ぎてしまったが…まぁ仕方あるまい」




 人を殺しておいて仕方ないと宣う怪盗スタイルに笑いながら仮面を外す。

 「これから海外に逃亡ですか?」
 「それができれば苦労はしないよ。さぁ、おいで…」

 柵を飛び越えて着地するが、滴やに珠打つ着流しに乱れはなく草履の裏を擦る。

 「すみません…俺、ただの男で…おとぎの国のお姫様じゃないから幸福ハッピーエンドには縁がないみたいです」
 「私が幸せにしてみせるよ」
 「どうして俺が欲しいんですか?」

 ヘリの爆音を聞きつける野次馬の波を押し退け、青嵐が血相変えて飛んで来た。振り返る俺からゆっくり離れて行く科戸さんは口角を上げながら、袂から輪に通された鍵を放り投げる。

 「気が向いたらいつでもおいで、待ってるよ」

 俺を飛び越す勢いの鍵を飛んで受け取ると、後ろから青嵐に抱き留められた。

 「また、浚われそうになって…いけない子だ」
 「どこにも行けねぇーよ」
 「青嵐。その子に早く名前をあげなさい。それとも私が授けてやろうか?」
 「いい加減うちの子にちょっかい出すのやめろ、殺すぞ」
 「あはは。一度でいいから死んでみたいみたいものだ」

 壮絶なる兄弟喧嘩に、終止符。
 降りてくる梯子を掴むその手から…祝福の榴弾が降り注ぐ。

 「脱獄…て半日でできるの?」
 「忠興はプロだから
 下手したら死肉でバーベキューするくらい余裕だよ。お前も食べただろう?」
 「ああ、やっぱり…アレ・・…そうなんだ」
 「あの店で動物の肉が出た試しがない」
 「俺さ、怖くないんだよね。感覚おかしいのかな?」
 
 泪町の銭湯にいた番頭
 達磨にされて半分死んでるの臭いでわかった。
 目の前で血袋が破裂しても、ぞっとする反動で興奮するみたい。
 客相手じゃ分が悪いしそもそもが商売…だから詰めないにしても俺いつか後戻りできなくなる。

 「忠興が欲しがるわけだ」
 「ないわ…」
 「先にみつけた私に権限があるからね。さっさと隷属にして正解だったよ」
 「俺が最初に殺すのは青嵐、お前って決めてるから」
 「親を殺せば次は、お前の番だ。かつての私がそうであったように…ね」

 突如起きた、屋上階の爆破騒動に逃げ惑う人々。
 悲鳴が上がる廊下を二手に分かれて走り抜け、手すりのスロープを滑りながら階段を下りる青嵐は上から飛び降りる俺を受け止めてフロントまっしぐら。逃げる時だけ息ぴったりな俺達は手と手を取り合い、自由の世界へ飛び出す。
 吠えながら追いかけるのは、猟犬の本懐。
 青輝丸は優秀な犬だな。俺にはとてもじゃないが真似できない。
 マスタングのハンドルを握る、青嵐はまるで白馬の王子様?跳ね馬の間違いだろ。

 ―――― さぁ今宵も、ひと暴れしますか。
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